試合は引き分けに終わったが、残り試合は少なく、マジックを1つ減らしたヤクルトにとっては勝ちに等しい試合だった。前日の試合で11得点した阪神打線を7回まで0点に抑えた高橋が、1番の立役者だろう。

昨年オフに結婚し、シーズン中には第1子が誕生した。現役時代、高橋とは小川とともに自主トレをやってきたからよく知っているが、今年のマウンドは明らかに違う。投げっぷりがいいタイプではあったが、その分、勝負どころで甘くなったり、走者を出してからのピッチングに不安があった。そんな弱点を「負けられない」という気迫と集中力でしのげるようになった。

序盤の3回をパーフェクトピッチ。そして4回1死から中野に死球を与えた。現在の阪神で最も警戒しなければいけないのは、3番の近本であり、一塁走者はセ・リーグの盗塁数トップ。投手としては、もっとも嫌な状況だった。しかし初球を投げる前にけん制球を入れ、1-2に追い込んだ後も2球続けてけん制球を入れるなど、隙を見せなかった。近本を内角の真っすぐで遊撃ゴロに打ち取り、このイニングを無失点で切り抜けた。

どんなピッチャーでもクイックをすれば多少の球威は落ちる。ただ、高橋の場合、クイックをすると制球を乱すことが多かった。しかし、今年は改善してきているし、今試合では走者を出してからも制球は乱れなかった。6回1死一塁でも、走者に中野、打者に近本という場面を迎えたが、1ボールから外角のチェンジアップで二ゴロ併殺。阪神打線に付け入る隙を与えなかった。一皮むけた投球内容だった。

この引き分けでヤクルトが圧倒的に有利になった。気が早いかもしれないが、CSでの戦いを想像すると、両チームに不安がある。阪神の先発ガンケルが良かったこともあるが、ここにきてヤクルト打線に元気がない。ガンケルという投手はボールを動かして攻める“ゴロ・ピッチャー”。今試合でエンドランのチャンスがあった場面では、3番の山田と4番の村上に打席が回って動きにくかっただろうが、思い切った作戦を試してみてもよかった。

一方の阪神はもっと苦しい。5回無死一、二塁で7番の小野寺に打席が回ったが、バスターで右翼への浅いフライ。8番は坂本で、9番はガンケル。打てる確率が低いからバスターにしたのだろうが、走者を三塁に進めていれば、ヒットでなくても得点が入る可能性はある。打てないのであれば、みえみえであってもスクイズのような戦術でベンチが責任を背負い、力不足の選手の負担を背負ってもいい。

CSで不気味なのは巨人。10月に入って打線が低調なだけに、そろそろ上がってくるような予感はする。ヤクルトと阪神は、打線が不調のままCSに突入するかもしれない。パ・リーグの優勝争いも熾烈(しれつ)で、楽しみな試合が続いている。(日刊スポーツ評論家)