阪神岩崎投手の隠れたファインプレーに目を奪われました。1点リードの9回裏2死一塁。代走高松選手が登場した場面です。中日ベンチ目線で言えば、是が非でも早い段階で盗塁を成功させて、得点圏に走者を持っていきたかったシーン。岩崎投手は二盗を許さないまま、代打郡司選手を遊ゴロに仕留めました。

阪神バッテリーからすれば、絶対に走らせたくない場面。岩崎投手の「間合いを変えるテクニック」にしびれました。1、2球目は走者をジーッと目でけん制してから本塁に投球。計3度の一塁けん制球は右足を上げる高さ、スピード感に違いを感じました。投球までのタイミングを繊細に変えることで、走りづらくさせていたのだと思います。

高松選手がスタートを切れたのは、1ボール1ストライクからファウルになった3球目のみ。この打席で投じた9球のうち、たった1度だけでした。かたや中日バッテリーは同点の8回1死一塁、2番手ロドリゲス投手が初球から中野選手にあっさり二盗を許し、勝ち越し劇のお膳立てをされています。この日は「走られた側」と「走らせなかった側」とで勝敗の明暗が分かれたように映りました。

試合序盤であれば、バッテリーは時にわざと走らせて捕手に刺させようとする策も使います。ただ、接戦の8、9回は少しでもリスクのある策は選べません。「走らせない技術」はクローザー、セットアッパーにとって欠かせない武器の1つでもあります。自らの失策で一塁走者を出した直後でも、走者との駆け引きを優位に進められる岩崎投手はさすがです。

1球の大切さを誰よりも知る30歳がどっしり後ろに構えていることで、阪神のブルペン陣はだいぶ落ち着きを取り戻したように感じます。(日刊スポーツ評論家)

中日対阪神 9回裏、阪神4番手で登板する岩崎(撮影・森本幸一)
中日対阪神 9回裏、阪神4番手で登板する岩崎(撮影・森本幸一)