見応えがあるというより、興味深い投手戦だった。本格派投手のイメージがある巨人菅野が技巧派にモデルチェンジし、技巧派に見える広島九里が本格派のようなピッチング。軍配は“新境地”を切り開いた菅野に上がった。

前回も制球力重視のピッチングで結果を出していたが、復帰2戦目の先発はそれ以上の内容だった。球速だけを見ても、150キロをマークしたのは1度だけ。6回2死、カウント2-2から西川に投じた1球だが、皮肉にも左前打にされている。序盤から変化球主体で、真っすぐは145キロ前後。しかし、シュート回転して抜ける球は極端に少なかった。

誤解してほしくないが、変化球主体といっても、ピッチングの基本はあくまで真っすぐ。その真っすぐがシュート回転しないで投げられるから、変化球が生きてくる。

その効果が出たのは、フォークボールだろう。真っすぐがシュート回転する時の菅野のフォークは、落ちが甘くなり、見極められたり痛打を浴びるケースが多い。もともとカットボール、スライダーの“曲がり球”は良かったが、真っすぐがシュート回転しないことで、フォークの落ちも良くなっていた。

投球フォームが格段に良くなっている。これまでは上半身が突っ込み、腕が振り遅れる。だから体の開きも早くなり、球も抜けてしまっていた。

しかし今試合では左足をゆったり上げ、右足にしっかりと重心が残っていた。軸足に力がたまるということは、横にスライドしていく時間が長く取れる。そうなれば腕を振る“間”ができる。カーブが良くなっているのも、投球フォームが改善しているからだろう。

腕の振り遅れは、さまざまな弊害を生む。まず球が抜けるから制球力が悪くなる。振り遅れを取り戻そうとして力を入れなければいけないため、肩肘の負担もかかる。体の開きも早く、打者がボールを見やすくなる。

菅野に関して言えば、もう少し胸を張るタイミングを早くすれば、リリースするタイミングで胸を閉じるように投げられるが、力みまくって投げていた投球フォームは改善していた。

9回こそピンチを迎えて完投は逃したが、肩肘への負担はこれまでよりかからないと思う。球数も投げられるし、回復も早くなるだろう。後半戦に向けて、エースが復活した。(日刊スポーツ評論家)

巨人対広島 巨人先発の菅野(撮影・浅見桂子)
巨人対広島 巨人先発の菅野(撮影・浅見桂子)
巨人対広島 マウンドで何度も土を払う菅野(撮影・浅見桂子)
巨人対広島 マウンドで何度も土を払う菅野(撮影・浅見桂子)