DeNAにとっては重要な一戦だった。ヤクルトと最大17・5ゲーム差あったが、この試合に勝てば5ゲーム差。チーム全体がいやが上にも、優勝争いが近づきつつあることを意識する状況だった。

だが普段通りの野球ができなかった。初回、制球が大荒れだったヤクルト小沢から1安打と2四死球で1死満塁。5番宮崎は2ボールから内寄りの甘めの直球を見逃した。制御の利かない小沢の投球を見れば、見逃したくなるのも理解できる。選択は間違っているとは思わないが、普段の宮崎の積極性からすれば振ってもおかしくない場面だった。「ボール球に手を出して凡退したら」と頭をよぎったかもしれない。結果的に押し出し死球で先制した。

続くソトも初球の直球を見逃した。初球から振ってくるタイプの打者も、やはり待った。2球目も甘めの直球だったが、最悪の投ゴロ併殺打。当てたい気持ちが強かったからか、スイングも弱かった。チームが7連敗中で、実績の少ない小沢にとっても周囲の状況を強く意識する中で、DeNA打線は逆に立ち直るきっかけを与えてしまった。

宮崎は5回2死一、二塁では2ボールから強振した。捉えきれずにファウルとしたが、3点差を追い掛ける状況で、逆に言えば重圧が少なかったから積極的に振ったと言える。初回の場面とは対照的だった。

DeNAは近年、優勝争いの経験がない。選手の経験値が少ないため、勝負どころで「普段通りの野球」がなかなかできない。昨季、日本一に輝いたヤクルトとの絶対的な差はそこにあり、ヤクルトはこのまま連覇すれば、この試合がターニングポイントになると思う。

DeNAは、優勝しない限り実体験を得られないからこそ、今の戦いが難しい。ただ「この試合を勝てば」という戦いを1つでも多くやれるのがプロの醍醐味(だいごみ)。こういう試合で浮き彫りになる課題は個人が今後、意識することで成長を促すことになる。

経験を積み上げるためにもヤクルトに食い下がってほしい。私も97年の横浜(現DeNA)時代に首位ヤクルトに3・5ゲーム差にまで接近し「俺たちもいける」と感じた9月の直接対決で石井一久(現楽天GM兼監督)にノーヒットノーランを食らった。最終的には11ゲーム差まで突き放され、悔しい思いをしたが、そこでの経験は翌98年の優勝につながった。DeNAは7ゲーム差に後退したが、今が踏ん張りどころだ。(日刊スポーツ評論家)