今オフには投打において大補強したソフトバンク。たくさんいすぎてここでは名前を挙げないが、野球ファンならよく知っている選手ばかり。補強選手だけを見ても優勝候補の筆頭に挙げられそうだが、あえて生え抜きの攻守の要でもある柳田について話してみたい。

キャンプでの動きを見ても軽快そう。フリー打撃前のトス打撃でも思い切りのいい豪快なスイングを見せていた。ただ、昨年は117試合に出場し、打率2割7分5厘、24本塁打。並の打者であれば「まずまず」と言っていい成績だが、3割30発が期待される日本を代表するスラッガー。WBC出場を辞退し、今季にかける意気込みの高さを感じさせた。

ただ、不本意だった成績について、柳田自身がどう考えているかが気になった。オフには体重を7キロほど絞ったと聞いた。これは個人的な想像だが、昨年は徹底的に内角攻めをされ調子を崩したように見えた。体重を絞ったのは、厳しい内角攻めに対応するためで、体のキレをアップさせるためではないだろうか。

フリー打撃でも必要以上に力んでいた。右投げ左打ちの打者に見られる弱点だが、打球を飛ばそうとしたり、内角球につまらないように鋭く体を回転させようとすると、トップを作ったあとのグリップの位置が後方に遅れすぎて立ち遅れ気味になるときがある。高いレベルの話だが、この日のフリー打撃には、そのような傾向を感じた。

昨年の柳田は内角を厳しく攻められ、すべての内角球を仕留めにいっていたように見えた。積極的に打ちにいくのは好打者の条件だが、どんなに高い技術を持った打者でも、ボールゾーンの球はヒットにするのは至難の業。ましてや内角に投げれば高い確率でバットを振ってくると思えば、ますます甘いコースに投げてこない。悪循環に陥ってしまう。

バッターは「見る」よりも「打つ」が大事。「見る」→「打つ」ではなく、打ちにいく中でボールを見極められないといけない。積極的に打ちにいく姿勢は柳田の持ち味でもあるが、もう少し「見る」の比重を高くし、内角球を見極めた方が相手バッテリーは嫌なはず。打者と相手バッテリーの勝負は「追えば逃げるが、待てれば来る」というパターンが多い。ボール球に手を出さなくなれば、ストライクゾーンで勝負してくる機会が増えるし、打てる確率も上がるはずだ。

昨年のヤクルト村上も、かつて巨人にいた頃の松井も、打ってはいけない内角球を見極め、打ちにいっていい内角球を仕留めにいくようになってから本物の“強打者”になった。

全盛期のスイングができなくなって、それを取り戻そうとする努力は大事。ただ、どんな選手にも目に見えない衰えは必ず訪れる。そこに対抗するのは熟練した技術。ボールの見極めができなくても、カット気味にファウルで逃げられればいい。力で補おうとするのではなく、少しだけ頭を柔軟にして考えた方がいいだろう。柳田が完全復活すれば、補強しなくても優勝できる戦力はそろっている。(日刊スポーツ評論家)