初勝利は逃したが、ヤクルト吉村は私の好きなタイプのピッチャーだと感じた。捕手の「こうしたい」思いに応えてくれる印象を受けたからだ。例えば、ここはボール気味でもOKとか、逆にコースいっぱいでとか、そういう捕手の意図を分かり合えそうだ。普通は何年かバッテリーを組んでできるようになる。私も多くの投手と組んだが、新人からできていた選手はなかなかいなかった。

もちろん、見た限りでの印象であって、実際には受けた捕手に聞いてみないと分からない。それでも、そう感じたのは、ピッチングの基本ができているから。ファーストストライクは甘めで取り、そこから外へ、外へとコースを広げていく傾向がみられた。これが反対だと、組み立ては苦しくなる。また、どの球種でもストライクが取れていた。コントロール、キレ、駆け引きで勝負できる。フィールディングもいい。

一方で、課題もみられた。全体的にボールが高かった。降板した6回は、秋山は直球、西川はフォークと、いずれも浮いた球を捉えられた。本人も分かっていたのだろう。2死一、三塁で坂倉の場面。カウント2-2から、2球続けてフォークをたたきつけた。低めへの意識自体は構わない。ただ、プロでは、投げた瞬間にボールと分かれば見逃される。坂倉は2球とも振らず、歩かれて塁を埋めた。代わった星が同点弾を打たれたのだから、吉村は詰めの甘さが出てしまった。フォークの精度を上げていく必要がある。

まだ1年目。経験を重ね、力に変えればいい。白星はつかずとも、登板3試合目で球数、イニング数とも増えた。このままシーズンを通して投げ、成長を目指して欲しい。ただし、相手にも情報は蓄積される。「ファーストストライクは甘めで」が基本であっても、それができる吉村には積極的に振ってくるようになる。ならば、最初からコースを狙うとか、ボール気味から入るとか、甘く入っても打ち取れるように最初から力を入れるとか、さらなる駆け引きが求められる。

疲れがたまり、キレが落ちるときもある。コーチや周りに聞いて準備して欲しい。苦い経験を味わったが、こういう日もある。徐々になくして1年を投げ抜ければ、ヤクルトにはかなりの戦力となる。

(日刊スポーツ評論家)