私はスコアブックにカウントをつけるのも忘れて、ただひたすらに見入ってしまった。今夏の甲子園大会は好ゲームが続き、記憶が次々とアップデートされていく。

おそらく、大社-早実に強烈な印象を受けた高校野球ファンがとても多いのではないか。そういう私もそうだった。この準々決勝の第1試合を見るまでは。

5人シフトも、心を揺さぶるスクイズも、胸が締め付けられる外野手の後逸もない。しかし、イニングが進むにつれて、あまりに強い両校の内野守備陣の動きに目がくぎ付けになった。

関東第一対東海大相模 3回裏東海大相模無死、軽快な守備で和田を二ゴロとする小島(撮影・足立雅史)
関東第一対東海大相模 3回裏東海大相模無死、軽快な守備で和田を二ゴロとする小島(撮影・足立雅史)

関東第一の内野は14回内野ゴロを処理し、東海大相模は同18回処理した。細かくは言えないが、恐らくそのうちの3~4本は明らかにヒット性だった。それを果敢に走り追いつき、あるいは見事なグラブの操作性で捕球し、かつ正確に素早く送球していた。

リズミカルで、アグレッシブで、スピーディーだった。甲子園の内野は素晴らしいグラウンドだ。そして、土特有のイレギュラーもあり、守るには高度な技術と、イレギュラーに対応できる機敏さが求められる。

ゆえに、打球に追いつき、変則的な動きをする球際まで何とか食らい付いても、最後の最後、送球が乱れることはざらにある。ワンバウンド送球も、大きく左翼側にそれることも、さらには高投してカメラマン席に飛び込むことだってある。

一塁手のミットに収まるまでまったく気が抜けない。それが甲子園の内野守備の難しさであり、スリリングなところだろう。だから、こうして両校の内野陣が初回から試合終盤まで、ずっと高いクオリティーで守り続ける様に目が吸い寄せられるのだ。

関東第一の二塁手小島は3回裏、東海大相模和田の一、二塁間を抜けようという打球に追いつき、さらに捕球間際で大きくバウンドしたにもかかわらず、絶妙な左手の柔軟なグラブさばきで捕球し、正確な送球で二ゴロとした。

東海大相模の三塁手日賀は7回表、関東第一の小島の三塁線への打球が大きく跳ね上がるも、腰をかかがめながら腕を目いっぱいに伸ばして好捕。そこから強肩で矢のような送球で、こちらも三ゴロに仕留めている。

数え上げたらキリがないが、次から次へと好捕と正確な送球が繰り返され、見ていて不思議な心境になってきた。こうした守りが締まった好ゲームは得てしてエラーや長打で試合が決するものだ。

関東第一対東海大相模 7回表関東第一無死、高橋は先制の左越え本塁打を放つ(撮影・岩下翔太)
関東第一対東海大相模 7回表関東第一無死、高橋は先制の左越え本塁打を放つ(撮影・岩下翔太)

長打はやむを得ないとしても、できるならエラーは最後まで出ない試合であってほしい。お互いに極めて高いプレッシャーを掛け合いながら、終盤までなだれ込み、最後は関東第一の高橋の左中間への先制アーチで試合は動いた。

しかし、そこでも勝負のあやがあったように感じる。高橋の一発は7回先頭打者として放つのだが、その直前、高橋は守備で送りバントを5→6→3の併殺に仕留めていた。それも、バントを試みたのは先発左腕藤田。高橋は素早く前進して捕球すると、迷わず二塁に送球し、瞬く間に併殺を完成させた。

気をよくして打席に入った高橋に対し、併殺に仕留められた藤田は心理的に落胆していても不思議ではなかった。その初球、変化球をものの見事に高橋はたたくのだが、ここにも守備力が相手投手に与えた心理的負担が大きかったと感じた。

鉄壁の守備を見せてくれる試合はあるが、両校ともにここまでの完成度の高い守りを見せてくれる試合を、私は知らない。自分の守備範囲などに縛られず、どこまでも追いかけ、強くまっすぐな送球を送り続ける両校内野陣をたたえたい。

派手で特長的なプレーはないが、極めてレベルの高い守備合戦が織りなす緊迫の展開は、野球ファンにはたまらない緊張感と集中力をもたらしてくれた。

関東第一対東海大相模 5回表関東第一無死、越後の左飛を好捕する東海大相模・長尾(撮影・岩下翔太)
関東第一対東海大相模 5回表関東第一無死、越後の左飛を好捕する東海大相模・長尾(撮影・岩下翔太)

5回を終わってまだ1時間経過していなかった。にもかかわらず、試合を見て大満足できる内容の濃さに、本当に両校の選手に拍手を送りたい。母校関東第一がおかげさまでなんとか競り勝つことができたが、東海大相模の鉄壁の守りに敬意を表したい。

「いつでも準備はできてるぞ」。両校の内野陣からは常にアグレッシブな気迫が感じられた。弱気なしぐさは一切見受けられなかった。見事な試合を見終えて、大社-早実とはまたひと味違う、深い深い感謝の気持ちがわき上がってきた。(日刊スポーツ評論家)