「きついとか言ってられないっす」。ティー打撃を終えた16年育成ドラフト8位の松沢裕介外野手は、汗をしたたらせながら言った。1日から川崎市のジャイアンツ球場で行われていた冬季育成合同練習が15日、終了した。台湾ウインターリーグに派遣されている選手を除く、11人が参加。野手最年長の25歳は、締めのあいさつを任され「もがいて、もがいて、来年はいっちょやってやりましょう!」と、笑顔で叫んだ。

 愛知・誉高校、朝日大、四国アイランドリーグ・香川を経て、15年育成ドラフト3位で指名された。だが、指名後のメディカルチェックで左手手指関節靱帯(じんたい)損傷が判明。入団を辞退した。それでも翌年、長打力を買われ、育成選手では初となる複数回指名を受けた。全体最下位、115人目での指名だった。

 1年目の今季は3軍で84試合に出場し、打率1割9分9厘、2本塁打、13打点。2軍では1打席のみで無安打に終わった。「もうダメかもしれない」。戦力外も覚悟した。それでも、チャンスをもらった。

 11月23日のファンフェスタ。1年ぶりに東京ドームに足を踏み入れた。大観衆を目の前に、沸々と何かが胸にこみ上げてきた。

 「絶対にここでやりたい、活躍したいという気持ちになった。今やらないでいつやるんだ、って。育成で終わったら誰にも知られないままで終わってしまう。それだけは嫌。ここまで来た以上は、1軍で活躍しないと意味がない」。

 冬季育成合同練習では、全体練習後も連日居残りで打撃練習を続けた。下半身主導を意識し、とにかくフルスイングにこだわった。目標は同じ左打者の亀井。「出てきただけで雰囲気が変わる。自分も亀井さんのような勝負強い打者になりたい」。ひと振りで結果を出し、大観衆をわかす。そんな先輩に憧れた。

 巨人の育成選手は今季限りで6人が戦力外となり、来季は新たに8人が入団。常に循環される大所帯の中で、競争はさらに厳しくなる。25歳。若手重視が広がる昨今のプロ野球の中で、選手として後がないことは、重々理解している。それでも、幾度の壁を乗り越えてきた雑草魂が、心に灯をともす。

 「僕は不器用でセンスないんで。周りの人のつながりがあって、ここにいる。ふがいない苦しいシーズンでも、絶対に来季につながると思っている。遠回りだと思われるかもしれないけど、それが僕の最短。しがみついて、毎日命がけでやるだけです」。

 「115番目の男」がひのき舞台を夢見て、もがき、戦い続ける。【巨人担当=桑原幹久】