メジャーから10年ぶりに復帰した巨人上原浩治投手(42)が、3月31日の阪神との開幕第2戦に登板した。5-4の8回、11球を投げて3者凡退に抑えた。巨人の栄光を知る男が東京ドームのマウンドに帰ってきた。

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 「人生って、なかなかうまくいかないなぁ」

 2月中旬、静かなウエート室でバイクをこぎながら上原がもらした言葉だ。カブスをFAとなり引き合いを待つも、市場は歴史的な停滞。先の見えない中で追い込む日々が続いた。傍らに携帯電話。「浪人時代みたいやね」と19歳を思い出した。

 予備校に通って苦手の英語と向き合い、夜は工事現場でアルバイトをし、空いた時間で体を動かしていた。

 「行き場の分からない不安って、当事者になってみないと分からないよ。今でも浪人生は尊敬してる」

 一般受験で大阪体育大に入り、大きく道を開いた。

 08年を最後に日本を離れた。十年ひと昔、マツダスタジアムを知らない平成の浦島太郎。延々とバイクをこぐ間、何げなく日本のプロ野球を動画で眺めた。DeNAの抑え・山崎が登場すると横浜スタジアムのファンがとび跳ねる「ヤスアキジャンプ」を見た。

 「これ、何? 球場は揺れないの? ファンがリリーフカーに集まって。あのハマスタがこんな…すごいピッチャーだなぁ」と驚いた。

 ファンは上原の歩みを知り、プロ20年の陰影に自分を重ねて応援する。だから出番を告げる「サンドストーム」で、東京ドームがハマスタ以上に揺れる。

 浪人を経てのし上がっていった青年時代、メジャーで苦労し、ボストンにたどり着いて世界を極めた13年もそうだった。人生に付きものの苦労をどう解釈するか。上原は雌伏して時を待ち、力に変えて、うんと高く跳ねる。

 うまくいかないから人生は面白い。【宮下敬至】