9月16日、歌手安室奈美恵が引退した。日本中が「安室フィーバー」に沸いた。広島戦が行われた神宮球場でも練習からヒットソングが流れ、ヤクルトの選手は打席への登場曲を「安室ソング」に変更するなど、大スターのラストに寂しさが募った。

そんな感傷的なムードを、18歳のドラフト1位ルーキーがひと振りで払拭(ふっしょく)した。村上宗隆内野手が1軍初昇格して即スタメンに抜てきされると、2回1死一塁のプロ初打席で初本塁打を放った。カウント2-2から、広島岡田のフォークがやや高めに浮いたとはいえ、完璧に振り抜いて右翼席中段に運んだ。

打った瞬間に本塁打と分かる、ホームランバッターならではの弾道。期待が目の前で現実となり、神宮のヤクルトファンは熱狂して大歓声を発した。そんな中、村上は柵越えを確信して右手人さし指を神宮の夜空に突き上げてゆっくり一塁へと向かった。背番後「55」の大きな後ろ姿に、バックネット裏の記者席からくぎ付けになった。初回の初守備で一塁に悪送球して初失策を喫しながら、初打席で初アーチとは、ある意味、大物だと思う。何よりも、単純に格好良かった。

高校通算52本塁打。プロ入り後は捕手から三塁手に転向し、大型内野手への道を歩んでいる。1年目ながら、クライマックスシリーズ進出を争うチームにとって、大きな秘密兵器となる可能性を十分に示した。それよりも、ヤクルトの主砲としてどっしり4番に座る未来も、1本のアーチで多くのファンに想像させた。歌謡界のスーパースターが芸能生活に別れを告げた日、プロ野球界に新星が誕生した。【ヤクルト担当 浜本卓也】