甲子園球場に入る矢野燿大監督
甲子園球場に入る矢野燿大監督

言い得て妙なネーミングだろう。関西のスポーツ新聞には日々、阪神矢野燿大監督の談話が載る。日刊スポーツは「キャッチフレーズ」の題字が躍る。03、05年に優勝へ導いた名捕手で弁も立つ新指揮官にふさわしいタイトルだ。整理部の前田健吾デスクは「それなりに時間がかかったかな」と話す。複数案から絞り込んで命名したという。的確で端的で個人的に好きだ。

ともあれ、風雲急の監督交代劇で矢野監督を追う日々が始まった。怖い人だ。いや、胸中を屈託なく明かしてくれるし、大阪人らしい突っ込みもあり、ユーモアに富む。でも、時々ドキッとする。先日も「キャッチャーやから読むやん、君らの気持ちを」と不敵な笑みを浮かべた。質問の意図を読み取り、心まで見透かされているような思いだ。

阪神では01年野村克也監督以来、17年ぶりの捕手監督が誕生。早くも司令塔らしい考え方に触れ、思わずうなずかされた。物事へのアプローチについて言う。「俺は逆算なのよ。だいたいが。まずは大きな目的があって。普通は考え方があって、行動が変わって、結果が変わる。そういう順番で言うけど、そこから追っていったらしんどい。ドーンと先(大きな目的)に行って、そこから逆算していったらいい」と説明した。

さらに続ける。「じゃあ(藤浪)晋太郎はどんな投手になりたいって。こういう投手を目指すというところからなら、振り返っていける」。まるで配球だ。強打者を迎え、まず結果球を思い描いて、そこから逆算していく。1球ずつ球種やコースを選択するのだ。目的のためにどう動くか、決断していく。ビジネスマンが聞けば思わず耳を傾けるような、行動哲学だった。

10月25日。ドラフト会議終了直後、会場から姿を見せると番記者がドッと取り囲んだ。その場で立ち止まって話をすることなく、指をさし「そっちに行こう。壁の方に」と言う。人通りに気を配って、邪魔にならない場所に移動した。そのさりげなさに視界の広さがにじみ出る。11月は安芸秋季キャンプが始まる。「キャッチフレーズ」に載る談話だけでなく、割愛された余話もまた、紹介したい。【阪神担当 酒井俊作】

ドラフト1巡目の抽選を終え記者に囲まれる阪神矢野燿大監督
ドラフト1巡目の抽選を終え記者に囲まれる阪神矢野燿大監督