新発見の日々を過ごす。オリックス張奕投手(26)は、外野手から投手に転向して2年目。今では1軍の先発ローテーションを任される。150キロを超える直球を武器に、打者に立ち向かう。そんな彼が、24歳で投手になった理由は「挫折」だった。

「バッターではダメって自分でも分かったので…。そこで転向。育成の酒井(勉)コーチと相談して決まりました。話していると『よし、投げてみよう』となったんです」

台湾出身の張奕は福岡第一から日本経大を経て、16年育成ドラフト1位で外野手としてオリックスに入団。胸を躍らせて臨んだプロの世界だったが、17年は2軍で59試合に出場して、打率0割9分1厘と結果は出なかった。「今までずっと野球をやってきたのに『楽しくない』って思う自分がいた。『どうやってバッティングしてたっけ?』って。そう思うと(出場の)チャンスが減った」。

18年も開幕から15試合でノーヒット。6月にバットを置いた。血豆が破れることは、もうない。外野グラウンドで飛球を追うことも、スライディングすることもなくなった。生き残る場所を見つけようと懸命に右腕を振った。「球団が(投手として)チャンスを与えてくれたので。なんとかものにしたいと思って必死に…」。変化球の精度も磨き、19年5月に支配下選手登録され、8月8日の日本ハム戦(旭川)でプロ初先発初勝利を挙げた。

昨季は1軍で8試合に登板して2勝をマーク。貪欲な吸収力が、張奕を押し上げる。「練習に正解はない。いろんな人から話を聞いて、まずは自分で試して。そこで良かったら、自分のメニューに取り入れる」。ストイックな姿勢で、結果を残してきた。「1軍で活躍したいという意志は、みんな一緒。そこで、いかに競争に勝つのか。誰にも負けないように。結果を出せば残る世界。常に新しい気持ちを持って戦いたい。自分の中でも、どこまで上にいけるのか楽しみ。限界はどこにあるのか。この世界はいつまであるのか分からないので。後悔しないようにとことんやろうと」。

昨オフにはプレミア12の台湾代表に初選出され、世界を相手に2勝し、最優秀先発投手、最優秀防御率、最高勝率投手の投手3冠に輝いた。重圧を背負い、プレッシャーをはね返した経験がある。

「もちろん、失敗もありますよ。『あ、これ、あのときにやっとけば…』とか。そこで『なんで失敗なのか』を考える。ピッチャーになってから、技術を身につける楽しさがある。今は、(野手だった)あのときとは違うんです。楽しくないと続けられない」

熱意で突き進む。「多分、野球だけじゃないと思うんです。会社とか、仕事でもそうじゃないですか? 工夫したり、楽しさがないと、毎日の成長がないと思うんです」。張奕の力ある言葉に、こちらもハッとさせられる。

今季は春季キャンプで右肘痛を発症し、出遅れた。8月13日ソフトバンク戦で、今季初登板初先発。22日西武戦で1勝目をマークした。29日ロッテ戦では自己最長の7回2/3を投げた。高い向上心で、歩みを止めない。【オリックス担当 真柴健】