新生オリックスの正捕手争いが熾烈(しれつ)を極めている。シーズン途中に西村監督が辞任し、8月21日西武戦(京セラドーム大阪)からは、2軍監督を務めていた中嶋聡監督代行(51)が1軍の指揮を執っている。

中嶋監督代行は、NPB最長記録の現役生活29年を「捕手」としてプレーした経験がある。取材でも常々「その投手の特長を生かすのが捕手の仕事」と話す。そんな中嶋監督代行がタクトを振ってから14試合が経過した(5日楽天戦終了時点)。ここまでの先発マスクは伏見が8試合、若月が5試合、松井雅が1試合。シーズン前半は、若月がスタメン起用されることが目立ったが、ここにきて伏見がマスクをかぶる試合が増えた。明確な理由もあり「(相手打者の)目線を変える意味合いもある」と、打撃よりもリード面を重視しての起用だと示唆していた。

伏見はシーズン序盤から山崎福とバッテリーを組むことが多かった。主に140キロ台の直球と、100キロ近くのカーブを使って、試合を組み立てた。内角外角のコースやゾーンの高低を使うだけでなく、緩急を利用して「奥行き」を生み、打者のタイミングを外す配球が見られた。

伏見は今季、左アキレス腱(けん)断裂の大ケガを乗り越えて戻ってきた。「試合に出る以上は体を整えて、最後まで出たい」と話すように、最近では最終回までホームを守る試合が目立つ。

選手会長も務める扇の要は、昨季138試合に出場し、打率1割7分8厘、1本塁打、21打点。周囲からは「もう少し若月が打てれば…」という声も耳に入り、打席に向かうのが怖くなった時期もあった。だが、今季は打撃フォームを改造し、課題だった打撃を克服しつつある。7月21日の楽天戦ではプロ入り初の満塁弾を放つなど、順調にアピールを重ねてきた。そんな2人の正捕手争いを、中嶋監督代行は楽しみにしているに違いない。

9月初旬の京セラドーム大阪だった。打撃マシンでバント練習をしていた伏見と若月の所に、中嶋監督代行がキャッチャーミットを持って歩んできた。バント練習が終わったタイミングで、中嶋監督代行は、座ってミットを構えた。バチン! とマシンから放たれる投球を捕球。左手で握ったミットは全く動かなかった。捕球姿勢や、細かくミットをずらすフレーミングなどを実践して、熱心に指導。伏見と若月は交互にうなずいた。打撃マシンのボールがなくなると、3人で拾って、再び補充。「おかわり授業」で成長を促した。

努力はいつの日か実る。「どうすれば選手にうまく伝わるのか-」。来日1年目のジョーンズや2軍から上がってきた中川、杉本らにも対話を心がけるシーンが目立つ。中嶋監督代行は根っからの「捕手気質」なのだろう。親身の指導を見るたびに、将来が楽しみになる。【オリックス担当 真柴健】