「いざ、福岡」と声に出して県境をまたいだら、割と響いてこっぱずかしい。関門海峡は、海底の人道トンネルで越えられる。本州側の入り口は源平の地、壇ノ浦古戦場跡の横にある。

12日朝、担当記者の私が陸路? での九州上陸を企てていたころ、ロッテは空路で決戦の地へ。関係者によると、富士山は雲で見えなかったという。

雲の上で、若武者の安田尚憲内野手(21)は何を思っていたのか。プロ3年目で初のCS出場だ。「初めてで何も分かっていないからこそできることもあると思うので。当たって砕けろじゃないですけど」と楽しみにしている。

長いシーズンだった。4番で多く起用されたが、経験はまだ浅い。何度もチャンスが巡り、凡退も目立った。「本当に震える場面もあります」と明かしたことも。仕事で足が震える場面なんて、そうは経験できない。「苦しい試合でも前向きに取り組んでいきたい」と心に刻み、1歩ずつ大きくなっていった。

九州上陸後、待てどもバスが来ないから門司港までのアップダウンを歩きつつ、なぜか安田のことが頭に浮かんでくる。山あり谷あり。酸いも甘いも味わってきた今季のロッテの歩みともリンクする。

強敵とやり合う。たかぶるか、落ち着くか。「たかぶる方がボクはいいと思います」と即答。CSは9番起用が有力ながら「もちろん興奮しすぎたらダメですけど、熱く熱くプレーしていきたい」と頼もしい。13日の打撃練習は、完璧なライナー弾で締め「バッティング、終了です!」と高らかに叫んだ。関門海峡トンネルであの声を出したら、下関にも門司にも届く。令和のロッテに安田あり。自分の歴史をつくる戦いに挑む。【金子真仁】

◆安田尚憲(やすだ・ひさのり)1999年(平11)4月15日、大阪府生まれ。履正社では甲子園に2度出場。2年夏は3回戦敗退も3年春準優勝。17年ドラフト1位でロッテ入団。1年目は出場17試合でプロ初本塁打をマーク。昨季は1軍出場0に終わったが、今季は初の4番も務めるなど113試合に出場して打率2割2分1厘、6本塁打、54打点。188センチ、95キロ、右投げ左打ち。目標選手は松井秀喜。父の安田功氏(59)は大阪薫英女学院陸上部監督として全国高校駅伝で2度のV経験を持つ。

練習で笑顔を見せるロッテ安田(右)らロッテナイン(撮影・横山健太)
練習で笑顔を見せるロッテ安田(右)らロッテナイン(撮影・横山健太)