球界の名物スカウトの1人だった池之上格さん(66)が、今季で阪神を退団する。ダイエー、阪神でスカウト、編成担当を歴任し、今季は阪神の虎風荘の副寮長を務めていた。

ダイエー時代は青学大・小久保裕紀や同・井口忠仁、阪神では菊地東日本統括スカウトらと力を合わせて早大・鳥谷敬の獲得に尽力した。ダイエー時代から国内外を問わず、歴代の大学日本代表と行動をともにし、首脳陣や選手を知り尽くしていた。鹿児島の進学校鶴丸からプロ入りし「ぼくにとっての大学は、日本代表。そこでいろいろな大学の監督さんと巡り会えた」と日本代表の視察を通じ、スカウトにとって命綱といえる人脈を育んだ。大学生のビッグネームを、次々に射止めた。

その一方で、縁のなかった選手に対しても労力を惜しまなかった。

忘れられない光景がある。11年ドラフトの2日前。関西学生野球秋季リーグ戦を取材に皇子山に行き、あてどなくスタンドをのぞいた。ドラフトを2日後に控え、大半のスカウトは直前の編成会議のため、東京に集結している。もうだれもいないだろうと思ってスタンドを見上げたら、池之上さんがぽつんと座っていた。「東京に行く前に、小林をもう1度見ておきたくて」と、同大・小林誠司(巨人)の動きを見守った。

小林は2位以下の指名なら社会人の日本生命に進む進路を公表し、ドラフトに臨んでいた。球団の戦略からして、阪神とは縁がなかった。それでも大学での4年間、熱意を持って追いかけ、成長を見てきた選手。「縁はないけど、もう1度見ておきたかった」と池之上さんは明かした。

中日大野雄の佛教大時代も、そうだった。戦略上、縁はなくても、とにかく池之上さんは試合、練習に足を運んだ。「どこかでまた、縁がつながるかもしれないからね」と笑っていた。選手のさまざまな瞬間をできる限り見届けるという使命感、見たいという熱意の伝わるスカウトだった。【遊軍=堀まどか】

阪神・池之上格スカウト課長(右)の指名挨拶を受けて笑顔で握手を交わす大阪ガス・能見篤史。左は湯川素哉監督(2004年11月18日)
阪神・池之上格スカウト課長(右)の指名挨拶を受けて笑顔で握手を交わす大阪ガス・能見篤史。左は湯川素哉監督(2004年11月18日)