昨年12月から3年ぶりに現場復帰して、最も感じたことは「バイオメカニクス」のプロ野球選手への浸透だ。他の球団はともかく、DeNAは多くの選手が自主トレに取り入れている。2人の職員を「バイオメカニクスアナリスト」として雇っている。「バイオメカニクス」は一般的に「生体力学」と訳されるが、今回は少し幅広く「人体の構造、動きに関する知識」と定義する。

昨季10勝の大貫がキャンプ初日にブルペン投球した際、テーマを「並進力を大きくすること。横の時間を長くつくりたい」と話した。「並進力」という聞き慣れない言葉。昨年12月に筑波大に行き、川村卓教授の動作解析を受けていたという。フィードバックを数回受け、球団の担当者とも話し合いながら「右足で粘る」ことで、並進力を増すことに決めたという。

二塁のレギュラーを狙う伊藤裕は、自主トレ中にスポーツトレーナーの小山光久氏(33)の動作解析を受けた。バットを縦に落とす感覚を身に付け、飛距離を伸ばした。「去年はフリー打撃でも柵越えが少なかったのに、ライナー性の打球でスタンドに入ることが増えた」。キャンプでは砂田と対戦した打撃練習で2本の柵越え。2本とも「去年までだったら入っていなかった」が、飛ばし屋の細川と同じ本数だった。

このほかにも、2年目の坂本は「神経整体」という米国流の整体術で、体のメンテナンスを行ってきた。上茶谷は「野球の動作解析ではなく、体をどのようにも動かせるようにコントロールする」ことを目指して、トレーニングジムに通った。浜口も球団のトレーナーに相談しながら、外部のジムで「体を大きく使うこと」を学んだ。意識の高い選手が一気に増えた。ひと昔前のように、オフはゴルフざんまいで足腰を鍛えた、なんていう選手は皆無だ。

19年5月、ソフトバンク三笠球団統括本部長(現GM)が講演で、ゴルフの専門家でないコーチをつけて復活したタイガー・ウッズを例に、バイオメカニクスに注目していると力説していた。あれから1年半。巨人のエース菅野は外部トレーナーの意見でフォームを変更し、開幕13連勝した。想定以上に早く、プロ野球の現場は球界の外から新たな知恵を導入していた。【DeNA担当 斎藤直樹】