150キロを超えるような直球があるわけではない。多彩な変化球と制球力、そして独特なフォーム。阪神伊藤将司投手(25)は自分だけの個性を生かし、1年目からプロの強打者たちと互角に戦った。

今月24日の広島戦(マツダスタジアム)で10勝目を挙げ、球団新人左腕では67年江夏豊以来3人目の快挙を成し遂げた。入団時から公言していた2ケタ勝利という目標を達成。チームは惜しくも逆転Vとはならなかったが、開幕から最後まで優勝争いに貢献した。

特徴的なのは、出どころの見えにくいフォーム。グラブを持った右手を高々と上げ、体の後ろで左手を隠す。横浜高時代、渡辺元智元監督(76)から伝授されたものだ。「体に隠して投げろってよく言われていました」。国際武道大では、その個性を存分に伸ばすように教えられた。同大学の岩井美樹監督(66)は「投げやすかったら、どんどんグラブを上げなさい、と言っていました。普通にしちゃだめ。個性を大事にするんです」と振り返る。「え、いいんですか?」と左腕は背中を押され、長所はさらに輝きを増した。

伊藤将が昨季まで所属した、JR東日本の浜岡武明監督(49)が、話していたことがある。「将司みたいに玄人受けするようなピッチャーも、プロで活躍出来ることを証明してほしいんです」。剛速球がなくても、個性を生かせばプロの世界で渡り合える。恩師たちの教えと期待に応え、1年目からしっかり結果で証明した。【阪神担当 磯綾乃】