ユニホームの上から下はもちろんのこと。顔まで真っ黒に泥だらけになった。

予報より早く雨が強く降り出した10日。ひなたサンマリンスタジアム宮崎でのソフトバンク-西武戦。年に1度の宮崎開催の試合は中止になった。両軍ファンの落胆の声がもれる中、ここぞとばかり西武のムードメーカー2人が盛り上げた。

山野辺翔内野手(27)と山田遥楓内野手(25)である。

まず手拍子をあおり、三塁側ファウルゾーンの芝でスライディング。これで“準備運動”は完了。その後、2人はバッターボックスへ。一塁、二塁、三塁、本塁。それぞれスライディングした。シートも撤去されていたダイヤモンド。まるで潮干狩り場のごとく、ぬかるんだ土の上をちゅうちょなく滑った。最後は2人とも全身真っ黒になった体で、「獅子男~」と右腕を突き上げた。

傘を手にする観客からは、自然と拍手が湧き起こった。冷たい雨の中で、大きな笑い声と温かな歓声が球場を包んだ。球団の公式ツイッターで、山野辺は「皆さんの歓声が聞けてよかったです」といい、山田は「盛り上げられてよかったです」。そう顔に土が付いたまま笑う。

困った時こそ頼りになる-。選手としても、そんな存在の2人である。ともにユーティリティー性が高い。山野辺は源田の抜けた中、ショートを守った。山田は本職でないファーストで好守を連発した。山川が万全でなく、呉も離脱を余儀なくされた穴を、最小限にとどめた。

西武はまだまだベストな布陣を組めない中での戦いが続く。そんな時こそ、レギュラーの地位を奪えていなかった男たちの台頭が大切になる。辻監督は繰り返す。「若いやつはチャンスなんだ」。

昨秋の契約更改の誓いを振り返る。山野辺は「スーパーサブというか、そこからレギュラーを目指せるように頑張りたい」。かねて指揮官から「ムードメーカーの役割だけじゃだめだ」と言われていた山田は「1年間、1軍の戦力として戦っていけるように」。

その2人の働きの重要度は今、増している。そして殻を打ち破った時、チームの底力も高まっていく。【西武担当 上田悠太】

ソフトバンクとの試合が雨天中止となり、ベースランニングを行う山田(左)と山野辺(2022年5月10日撮影)
ソフトバンクとの試合が雨天中止となり、ベースランニングを行う山田(左)と山野辺(2022年5月10日撮影)