元首相、大臣、長官、事務次官、会長…。さまざまな肩書を持つ人物を取材してきた。4月、記者人生で初めてプロ野球を取材する部署に異動し、巨人担当を拝命。新たに大きな肩書を持つ人物がそこにはいた。

「巨人のキャプテン」。坂本勇人内野手(33)だ。

4月30日の阪神戦(東京ドーム)の守備中に痛めた右膝内側側副靱帯(じんたい)損傷で2軍調整中。そのため、間近で選手の調整を見られるジャイアンツ球場(川崎市)で取材することができた。

日本スポーツ界において長年、規模も経済力も観客動員もトップを走ってきた巨人というチーム。その場所で選手統率を任された主将とは一体、どんなパーソナリティーなのだろう。記者として純粋に興味があった。

結論から記すと「気さくなリーダー」だった。チームでは圧倒的な成績を残し、不動の遊撃手として君臨するカリスマ。その威光を抑え、ひたすら2、3軍の選手に話しかけていた。

当然、坂本を一見した後輩たちは立ち止まり「おつかれさまです!」と、一礼する。坂本はそこで「当たり前」のような顔をしない。必ず口角を上げ、笑顔をつくって対処する。

おそらく、主将としての立ち居振る舞いとして意識しているのだろう。会釈だけで終わることは少なく必ずひと言、そえることが多い。笑い話を交えて、和ませることも散見された。

長い記者生活。多くのリーダーを見てきた。最も迫力があったのが森喜朗元首相だった。2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長職を務め、私は番記者として毎日のように森会長を取材した。

はたから見ると「威光」を感じるとのご意見を耳にするが、実際に接してみると違う側面も見えてくる。部下や関係者に頻繁に話しかけるのだ。そのこわもてとは裏腹な冗談や気遣いの言葉で、半径数メートルの周囲をとりこにしてしまう。

さまざまなリーダー像があるだろうがオーラを身にまとうと同時に、仲間への気さくな立ち居振る舞いが人を束ねる上で重要な要素であることはたぶん、間違いない。ジャイアンツ球場でケガと向き合いながらも、リーダーとしての仕事も忘れない坂本を見てまた1つ、組織のあり方を勉強させてもらえた。【巨人担当 三須一紀】