長くプロ野球を取材していると、疑う視点をおろそかにしてしまうことがある。慣れとは恐ろしいもので、怖いものだ。常に新しい視点で見なければいけないと、選手や監督首脳陣から気付かされる。5月16日DeNA戦、広島西川龍馬の打席がそうだった。

7回1死二塁。1ボールから坂本裕哉の直球系の球を空振りしたスイングに違和感を覚えた。打ちに行っているのに、打ち気がないように感じられた。しっかり振り切ったように見えなかったのに、空振りしても納得しているように見えた。

「もしかして、わざと空振りしたんじゃないか?」

そんな疑問が沸いたのも、西川だからだ。プロ野球界でもその高い打撃技術を認められる西川だからこそ、疑った。本人に翌日、直接当ててみた。

「うん。(バットに)当たらないようにしました」

いつものクールな表情を崩さず、言った。打ちに行ったけれど、狙った球種と違ったことで凡打を避けるため、瞬時に空振りしようとし、そしてバットは空を切った。

バットの軌道を変えるのではなく、「力を抜く」のだという。力を抜くことでバットヘッドが下げて投球の軌道から外すというのだ。たとえ空振りとならずにバットに当たったとしてもファウルとなる算段なのだろう。空振りやファウルならば、投手との勝負はまだ続く。ただ今季、意図した空振りは1度や2度ではない。「何度かあった」と言う。疑う視点をおろそかにしていた姿勢を正された。

今季は開幕前に封印を宣言したはずの“曲打ち”も封印できていない。ボールと見極めたつもりの球をストライク判定された打席を悔い「三振したくないから」と前言を撤回した。

今季は連続無安打が2試合続いたのは、開幕戦、開幕2戦目の1度しかない。中軸を託された責任感もまた、打撃に好影響を与えているように感じる。昨季約2カ月離脱した肉体面さえ問題なければ、結果は自ずとついてくるだろう。その過程で見せる曲打ちや意図した空振り、そしてまだ隠されている技術に、疑いの目で注視していきたい。【広島担当 前原淳】