12月になり、会社から命じられる私の担当任務も変わった。
約2カ月前、11月3日、文化の日を追憶する。都内の某球場に西武中村剛也内野手(40)を探しに行った。中学生の長男の試合をたぶん観戦しているはず-。
スタンドを見渡す。いない。帰ろうかな。視線をずらすと、目立たない日陰にいた。試合終了。軽く敬礼し会釈する。目が合った。プライベートの時間。けげんな顔をされるかと思っていた。意外にも、少しほほ笑んでいた。
シーズン後、姿を見せないベテランに現況を聞きたかった。もう1つ、個人的な目的があった。
話を聞いて、少し間を置いてから切り出した。
「実は、この年末でライオンズ担当を離れることになりまして。1年間でしたけどいろいろお世話になりました」
「へぇー、次はどこに行くんすか?」
「アマチュア野球の現場が主体になる感じで」
よほどのことでは動じない人だ。家族や親しい仲間うちならともかく、記者相手に派手な反応をするようなタイプではない。
だから「アマチュア野球」に対する反応も「へぇー」だろうなと思っていた。違った。
「おぉ!!」
とっさにあごを上げて、目を少し大きくした。
「いいっすね」
意外な反応だった。さらに感想が続く。
「いいっすねー。面白いっすよ、アマチュアの方が。小学生のレベルの高いのと、中学野球。面白いですよ」
どのあたりが。
「ただ単に面白い。見るのが楽しいですよね。いろんなことが起きるので。プロ野球は長いし、見てて楽しくない。中学野球とかちょうどいいんですよ。1時間半とか2時間。間延びしないし」
そんな“おかわり節”の主はこの日、ずっとこの物陰で観戦していたという。
「きょう10時からずっとここ座ってて。日陰に。暑いよね、11月なのに」
それでも顔は飽きていない。息子の試合を見た以上に「楽しかった」が伝わってくる表情だった。
12月26日には西武ジュニアの一員として「12球団ジュニアトーナメント」に出場する次男の試合を横浜スタジアムで観戦していた。ホットコーヒーをすすり、時に手拍子もしながら。次男もベンチで、トランペットの音色に合わせて手拍子をしていた。似てるなーと思った。
その試合には奥村剛球団社長(56)もスーツ姿で訪れていた。熊本工、明大、プリンスホテルと王道の野球部を歩み、今はプロ球団のトップを務める。「アマチュア野球、いいですよね。私も今はプロ野球の世界ですけれど、アマチュア野球にも思い入れがあるんですよ」。しみじみと話す表情が印象的だった。
会社の先輩から面白い話を聞いた。
河川敷で還暦野球を眺めている初老の男性がいる。彼の方へボールが転がっていた。捕って投げ返し、それをきっかけに仲間に入れてもらった。実は男性は、仲間に入るチャンスをずっと待っていた-。
華やかな甲子園や東京6大学ばかりではない。こんな話だってアマチュア野球だ。物陰でずっと息子の活躍を眺めた「父・中村剛也」だって、アマ野球の登場人物。野球好きの数だけ物語がある。
せっかくの機会になる。プロ野球の現場にも時折は足を運びつつ、裾野や角度がとんでもなく広い「野球の国」を自分なりの目線で味わってみたいと思う。
「そんなわけで担当じゃなくなりますけど、今後もちょいちょい顔出します」
中村は何も言わず、優しい目であごを少しだけ突き出した。【金子真仁】




