ヤクルトの侍は、今も侍を求めている。2月の沖縄・浦添の春季キャンプ。選手、スタッフの中に、どこか見覚えのある顔があった。とは言っても、確信は持てなかった。短髪、無精ひげの外国人。こちらに近づいてきても、分からなかった。キョトンとしていると、あるスタッフが「バーネットだよ」と教えてくれた。

トニー・バーネット。10年に来日し、2度の最多セーブのタイトルを獲得した元守護神。当時は長く伸びた髪、もみあげまで蓄えたひげがトレードマーク。映画「ラスト サムライ」で主演を務めたトム・クルーズのようなルックスから侍と呼ばれていた。15年のリーグ優勝に貢献すると、16年からは米メジャーのレンジャーズに移籍し、19年にカブスに渡り、20年に現役引退。今はヤクルトの編成部アドバイザーに就く。期間限定で浦添キャンプ視察に訪れていた。

仕事の1つに、駐米スカウトがある。球団からリクエストがあった情報を基に、米国の各地の球場を回る。「漠然とその試合を見るというよりは、球団が必要とするものに合う選手がいるかどうか。日本で成功するかどうかっていうのを、見極めてっていうのが、僕らの仕事」とうなずいた。

現役当時は、とにかく“怒っていた”。今は笑顔が増えた。それを伝えると「ハッハッハ」と豪快に笑った。「あの時はね、野球に集中していたからね」と恥ずかしそうに言った。ただ、選手を獲得する側になった今、選手を見るポイントは“もう1人のバーネット”か、どうかだった。

バーネット 自分もそうだったけど、選手を見る中で、高いレベルの中で、常に他のピッチャーとかと競争力、競争心っていうのを強く持ってやってるかどうか。3Aとか2Aとかは、あんまりファンがいない。そういう球場でやってると、あんまりモチベーションなんかも上がんなかったりする。でも、そういう中でも、1日1日一生懸命、競争心と他の選手よりも、強い意志を持ってやってるかどうかっていうのを見極めるっていうのが一番大事かなって。

バーネット自身、来日直後から異国の地でそういう高い意識を持っていた。「常に他の選手と競争してる中で、やっぱりそういう強い心、他の選手よりも俺が一番なんだっていう、強いマインド、心を持った選手かどうかっていうのをもってて、それが多分日本で成功するというか、それが自分の中で一番大事」と言った。

神宮のマウンドで、よく怒り、よくほえていた。それは「1球、1球力を込めてね。相手に向かっていくっていうものが、ああいう絶叫だったかもしれませんね。そういうのっていうのは、多分自分も野球をやってきた経験の中で必要じゃないかなって思います」。新たに日本に来る外国人にも、同じ姿を求める。

バーネットは言う。「自分は根っからの野球好きで、ヤクルトっていうチームに恩もあるし、すごく良くしてくれるし、少しでもヤクルトの優勝に貢献できるような選手を1人でも、2人でも、見つけ出して推薦して、連れて来るっていうことが自分の目標ですね」。どれだけ距離が離れようと、時が経とうと、ヤクルトへの愛は変わらない。

最後に、記者が「第2のバーネット獲得を期待しています」と言うと「ノーバーネット! マクガフみたいなピッチャーを連れてこられるように頑張ります」と笑いながら、22年まで所属した守護神の名前を挙げた。

今日もバーネットは、新たな侍を探して、米国を回っている。外見ではない。闘争心を秘めた、意思の強い男を求めて、鋭い眼光を光らしている。【栗田尚樹】

ヤクルト選手時代のバーネット(2015年10月16日撮影)
ヤクルト選手時代のバーネット(2015年10月16日撮影)