静かに一塁側ベンチの奥に座って、練習を見つめるのが日常の光景となった。練習から引き揚げてくる選手たちには声をかけ、手をたたいて鼓舞した。監督時代から比べれば、ずいぶんと柔和になった視線だが、眼光の鋭さは変わらない。チーム10年ぶりとなるリーグ連覇。出遅れ、そして驚異の追い上げ、逆転V…。誰よりも連覇への自信を持ってチームを見守ったのはソフトバンク王貞治球団会長(85)だった。
本拠地みずほペイペイドームでロッテに開幕3連敗。近藤が腰を手術し、柳田は自打球で離脱。春先から主砲2人を欠いた。チームは波に乗れないどころか、借金を抱え、最下位にも沈んだ。
王会長 でもね、僕は心配はしていなかったよ。あれがシーズンの半分を過ぎたころだったら厳しいかもしれないけど、まだ始まったばかり。開幕からまだ30試合もたっていなかったんじゃないかな。十分、巻き返せると思っていたからね。
5月1日。27試合を消化し、借金7を抱えていた。開幕ダッシュに失敗し、故障禍にも見舞われた。なかなか25年型のチーム像が描かれない中でも王会長には「確信」があったという。
王会長 ウチは優勝経験をしている選手が多いし、彼らも経験というかこれまでの自信もあるしね。そこが他のチームと違うところ。(故障者を埋めた)若手も、そういう雰囲気にもまれて成長するじゃない。よく頑張ったと思うよね。
自らが常勝の礎を築き、ソフトバンクとなって過去20年でリーグVは7度。日本一にも7度輝いている。プロ入りから師弟関係を続ける小久保監督の姿にも頼もしさを感じ取った。
王会長 厳しい戦いの中でも(ベンチで)じっと表情を変えずに、我慢したよね。あらためて小久保監督の我慢強さというかね。感心した。僕だったらあんなに我慢できたかな、と思うよ。
監督時代から「優勝より連覇は難しい」と言い続けてきた。辛抱と我慢の采配で見事にリーグ連覇を達成した愛弟子の指導者としての成長に目を細めた。
今年5月、野球界のさらなる振興と発展を目指し、一般社団法人の「球心会」を立ち上げた。「BEYOND OH! PROJECT」と名付けられた取り組みは、50年後、100年後を見据えたオール野球界発展へ向けた大プロジェクト。巨人時代の盟友でもあった長嶋茂雄氏を亡くし、悲しみに暮れた1年でもあった。「僕らはいつでも前を向くしかないんだよ」。そう言い続ける王会長にとって、自らの気持ちも奮い立たせるリーグ連覇となった。【佐竹英治】




