今年4月、春のリーグ戦開幕を前に、野球部のOB会「一誠会」による現役選手の激励会が開かれ、創部100年を機に一新したユニホームが披露された。グレー地から白へ。胸マークやアンダーシャツのブルーの色合いも薄くなった。野球部の現役主務は当日の様子を「伝統のライトブルーが復活すると、年次の高いOBには好評だった」旨、東京6大学野球の公式ブログで伝えた。

「復活」と言われるのは、1991年(平3)に変更した、これまでのユニホームが「両袖に二本のネイビーの線」「ヘルメット、帽子の色はネイビー」と野球部90年史に記されるほど、多くの部員、OBが思い描くスクールカラー、伝統の「ライトブルー」とは違っていたからのようだ。

4月、創部100周年を記念した新ユニホームで春季リーグ開会式に臨んだ東大ナイン
4月、創部100周年を記念した新ユニホームで春季リーグ開会式に臨んだ東大ナイン

だが、当時の変更を主導した是永聡さん(92年卒)は「『ロイヤルブルー』という呼ばれ方もして、これはライトブルーじゃない、という声はありました。でも、私たちに伝統を捨てたという意識はありません。むしろ守った上で、より強く見える色は何かと考えたのです」と話す。

04年、国立大学法人への移行に当たって、広報戦略の担当者として大手広告会社から母校、東大の広報に出向していた石川淳さんは、学内である教授に声をかけられた。

「これが淡青(たんせい)ですか。もう少し緑がかった色ではないですか」

スクールカラーのライトブルーから名付けられた広報誌「淡青」を刷新した際、表紙に使った色が、教授のイメージとは違ったようだった。

石川さんは、とっさに答えた。

「先生が思い描く色も『淡青』の表紙も、ライトブルーです」

クライアント企業相手に言えば「色の統一規定を決めなさい」と言われかねない。

だが、教授は「そうですか」と言って立ち去った。その背中を見送りながら、石川さんは「東大らしいな」と思った。

スクールカラーの規定だけでなく、東大には正式な校歌も校章もない。歌い継がれる応援歌「ただ一つ」が校歌だと言うなら、それでいい。本郷キャンパスのイチョウ並木に由来する「銀杏(いちょう)マーク」が校章だとするなら、それもまたよし。

曖昧模糊(もこ)として融通無碍(むげ)、ネイビーやロイヤルブルーも、その人が「ライトブルーだ」と言えばライトブルー。人それぞれ、多様なライトブルーが存在する。

在学中、陸上部に所属した石川さんは言う。「自主性、自律性を重んじ、決めつけを好まない。スクールカラーは端的な例ですが、学問への向き合い方にも通じる東大の文化、精神性を映していると思います」。

野球部のユニホームを飾るライトブルーは、東大という大学を物語っている。(この項おわり)【秋山惣一郎】