今年も多くの選手たちがプロの世界を去った。第2の人生へ踏み出す彼らを特集する「さよならプロ野球」を、全12回でお届けする。

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地元広島から“ガンちゃん”と親しまれた岩本貴裕外野手(33)が、赤いユニホームを脱ぐ。プロ11年で最少の1打席に終わった今年のオフ、戦力外を通告されて現役引退を決意した。だが、来季契約を結ばないと言われたときも岩本は笑顔だった。

10月2日、球団から戦力外通告を受けた広島岩本
10月2日、球団から戦力外通告を受けた広島岩本

「これが僕の人生。暗い顔をしてもしょうがない。若いころ、もっと練習しておけば良かった。もっと早く気づけば良かったな」

和製大砲と期待された。広島で生まれ育ち、広島商から亜大を経て、08年ドラフト1位で入団。10年にノーステップ打法で61試合に出場して14本塁打と量産した。片りんを見せながら、11年春に左膝を痛めた。シーズン終盤には「何をするにも痛かった」と手術。ノーステップ打法もやめた。

広島岩本の年度別成績
広島岩本の年度別成績

15年から3年連続打率3割をクリアしながら1軍定着には至らず、今年は2軍で1年を終えた。選手層の厚さも影響した。「(まだ現役を)やろうと思えばやれたかもしれないけど、僕は広島出身。カープに必要ないと言われたら仕方がない。言われたら辞めようと思っていた」。トライアウト受験の道は断った。

10年8月、9回裏に巨人クルーン(手前)から同点2点本塁打を放つ広島岩本
10年8月、9回裏に巨人クルーン(手前)から同点2点本塁打を放つ広島岩本

育ててもらった広島での引退を選び、今後も広島に尽くす選択をした。「最初は広島(出身)ということでプレッシャーはあった。でも広島の人は温かい。ガンちゃん、ガンちゃんと呼んでもらってうれしかった。どんなときも頑張ってと声をかけて、応援してくれた。広島で良かったなと思いました」。恩返しできたか、分からない。まだできると思っている。「選手が思い切ってプレーできるように、しっかり見て、研究して、勉強してやっていきたい」。来年からはスコアラーとしてチームを支えていく。恩返しは、これからだ。【前原淳】

19年広島退団選手
19年広島退団選手