第92回選抜高校野球大会(甲子園)の中止が11日、決まった。PL学園(大阪)で87年夏の甲子園優勝経験を持つ日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏(49)は高校球児に向け、夏へ気持ちを切り替え、悔しさを新たなエネルギーとすることを提言した。

87年8月21日、第69回全国高校野球選手権PL学園対常総学院の決勝戦 2回表に三塁打を放つ宮本慎也
87年8月21日、第69回全国高校野球選手権PL学園対常総学院の決勝戦 2回表に三塁打を放つ宮本慎也

センバツが中止になったと聞いた瞬間、自分が高校生だった頃を思い出した。もし仮に同じ立場だったら…。「このままでは開催できないのでは」と覚悟を決めていたとしても、ショックは計り知れない。野球をやっている少年たちは「甲子園に出たい」と「プロ野球選手になりたい」という夢を誰もが持っている。出場が決まっていたのだからなおさらだろう。

簡単に言えないのは分かっているが、それでも気持ちを切り替えてほしい。人はそれぞれで、全員に合った的確なアドバイスは言えないが「私ならこう考える」というものを話したいと思う。

1人でいつまでも悔やんでいても、今回の中止決定は覆らないだろう。ただ、甲子園出場の夢が断たれたわけではない。夏の大会があるからだ。「そんなの今回、出場する選手以外も同じだろう」と思う人もいるかもしれない。しかし、本来なら出られるはずの甲子園に出られなかった悔しさは、出場しなかった選手たちより大きいはず。誰よりも大きな悔しさは、エネルギーに変えればいい。

私は野球を続けていく上で“コンニャロー精神”を大事にしてきた。“コンニャロー”とは“このヤロー!”のことで、怒り、屈辱、悲しみといった感情をエネルギーに変える精神力だと思ってほしい。今回の一件で例えるなら、人より悔しい思いをしたのなら、人より大きなエネルギーを与えられたと考えてほしい。苦しい練習を乗り越えるためのエネルギー。野球がうまくなるためのエネルギー。チームを強くするためのエネルギー。なんでもいい。

そうやって人より頑張れれば、今後の人生にも生きる。たとえ、夏の甲子園に行けなかったとしても、その頑張りのおかげで上達し、大学でも野球を続けていく土台になるし、プロ野球選手として活躍できる基盤になることもある。野球をやめたとしても、そうやって必死に頑張った事実は、必ず何かの役に立つはず。こういう形で甲子園に出場できなかったのは初めてのこと。でも考え方を変えれば、誰も味わったことのない絶望感は、誰も手にできなかった大きなエネルギーに変えられるチャンスにもなる。そのチャンスを最大限に生かしてほしい。(日刊スポーツ評論家)

宮本慎也氏
宮本慎也氏