<ロッテVS.楽天>◇05年3月26日◇千葉マリン

俺の手元に、2005年(平17)のプロ野球開幕の日、千葉マリンで手に入れたTシャツがある。この年、球界に新規参入した楽天とロッテの開幕戦を記念したものだ。このシャツを見ると、晴れ上がった春の午後、冷たい海風が吹く、あの日のマリンを思い出す。

05年の開幕戦を記念したTシャツ。マッチカード・プログラムの表紙は、この日ロッテ先発の清水直行
05年の開幕戦を記念したTシャツ。マッチカード・プログラムの表紙は、この日ロッテ先発の清水直行

3月26日、50年ぶりの新球団、楽天を迎えた歴史的一戦を見ようと、マリンの周囲は、朝から人々が列をなしていた。2階席に座った俺は、ぐるりと球場を見渡す。超満員のスタンドが、試合開始を今か今かと待っている。球界再編で揺れた去年の夏が、遠い昔のようだった。

ロッテでファンクラブや営業を担当していた横山健一さん(57)にとっては「生きた心地のしない夏だった」という。球団内では、ダイエーとの合併はすでに決定事項となっていて、幹部から「福岡に行くことになったから」と伝えられていた。だが、ダイエー本社がNOを突きつけて破談になると、西武との交渉が始まった。今度は、西武が提示した案が、吸収合併のような形だったことにロッテが反発し、これも破談に。ロッテは、球界再編の陰の主役だった。

結局、楽天の加入で2リーグ維持が決まって、ロッテは千葉県や千葉市との関係を改善し、地域密着に本腰を入れていくことになる。05年の開幕戦は楽天と同様、新生・千葉ロッテ門出の日でもあった。

太陽が西の空に沈むころ、2階席が影を落とすグラウンドで、楽天監督の田尾安志と完投勝利の岩隈久志が、笑顔で握手を交わしている。歴史的一戦の歴史的1勝に立ち会った観客たちが歓声を送っている。ロッテファンも、悔しさいっぱいに新球団の初勝利を祝う。今ごろ仙台も大盛り上がりだろう。ロッテ監督のボビー・バレンタインが、後に残した「楽天は、岩隈が投げた時はいいチームだね」と皮肉の効いたコメントも楽しかった。

チームは負けたが、横山さんは「千葉で開幕できて、本当によかった」と、安堵(あんど)したという。当時、対戦カードごとに球場で配られていた「マッチカード・プログラム」には球団代表、瀬戸山隆三の言葉が記されている。「ファン、選手、球団が一体となって31年ぶりのリーグ制覇という大きな夢を実現させましょう」。この年、ロッテは日本プロ野球の頂点に立つ。

05年開幕戦の記念Tシャツは、2500円で買った。ふと思い立って調べたら、フリマアプリで1300円とか1700円の値がついていた。再編騒動を経て、プロ野球が新しい歴史を刻み始めた05年3月26日。その日付が入ったTシャツは、俺にとってはプライスレス。お金では買えない価値がある。(つづく)【秋山惣一郎】