教員の働き過ぎが社会問題化し、各県で見直しを図り始めたのは2018年からだった。それから2年。現場ではどんな取り組みがなされているのか。高校野球の指導者の新たな取り組みを紹介する。第1回は東北の強豪・花巻東(岩手)を取り上げる。

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「効率的、効果的」を追求し変化を生んだ。花巻東は、冬場の土日や冬休みの練習は3交代制。それに応じスタッフもシフト制で指導に当たっている。佐々木洋監督(45)は「生徒が充実した毎日を過ごすための環境作りを考えた結果です。スタッフがよく動いてくれた方が選手の力を引き出せるのではないか。スタッフを気持ちよく動かすのが僕の仕事だと思ったんです」とその思いを明かした。

20年7月、岩手県大会佐々木洋監督(中央)を中心に円陣
20年7月、岩手県大会佐々木洋監督(中央)を中心に円陣

会社経営からヒントを得た。選手のある就職先を見学すると、3交代制で無理、無駄なく製造作業にあたっていた。現場が動く仕組みさえ作れば、会社はうまく回る。「うちは、やりたい練習ではなく、100人を超える部員を回す練習しかできていなかった。効率的、効果的を考えたときに、全くダメだと思いました」。幸い、花巻東は監督、部長を含めスタッフは6人もいる。これまで冬場の土日は、朝から夜までぶっ通しで練習をしていた。

現在は、朝、昼、夕方の3つに分けて練習。スタッフも2人ずつ練習につけるシフト制にした。他にも、日によって寮の掃除の点検、朝の日誌点検などシフトは細分化。シーズン中も、コーチ陣は土日のどちらかを休みにした。川村悠真コーチ(29)は「時間に余裕ができたことで、細かな生徒の様子も見えるようになった。また学ぶ時間が増え、知識の幅も広がった」と、時間を選手たちに還元している。

スタッフ間は、監督が作成した「ホウレンソウカクカクネンネン(報告・連絡・相談・確認・再確認・念には念を)」をはじめとする10箇条からなる「スタッフのおきて」で意思統一。選手の変化や気付いたことは、グループラインで共有する。選手1人1人の表情まで見て、指導が行き届くようになった。

スタッフの休みが増えた背景には、その家族への思いもある。転機は19年2月。岩手県体育協会が進める「トップコーチ活動支援事業」の1つとしてアメリカの高校野球を視察したことが、佐々木監督の心境の変化につながった。「アメリカでは家族を大事にしないものは、外も大事にできないという考え方でした」。それはチームにも置き換えられた。これまで、日本の野球指導者は、家庭を犠牲にしてまでも指導に当たるものだと信じられてきた。しかし佐々木監督は「どちらかではなく、バランスをとりどちらもやるべき」と方向転換。これまでの高校野球界にある「伝統的、習慣的」な概念も取っ払い、客観的、論理的に物事を考えることで、今までの仕組みを見直す。いいものは残し、あしきものは変えていく。「休みが多くなり、家族との時間が増えた。練習の質もあがった上に、選手もスタッフもうまく回っている。ちょっとした考え方の転換でこんなにも変わるものかと思っています」と手応えを感じている。

選手ファーストの理念が指導の根底だ。「うちは、働き方改革で休みを取っているのではなく、選手にとって何が一番いいか、チーム運営とスタッフが気持ちよく動いてくれるにはどうしたらいいか。その両方を効率的に考えた結果。十分にリフレッシュをして取り組むことで選手とスタッフの意欲も上がるのではないでしょうか」。選手ファーストの思いと、スタッフの心と体の充実で、最高の指導へつなげる。【保坂淑子】

花巻東・佐々木監督
花巻東・佐々木監督