田村藤夫氏(61)が昨年に続き、フェニックスリーグ(宮崎)を現地から5回連続でリポートする。初回のテーマは「内角球」。16日のソフトバンク-ロッテ戦に5番手で登板したソフトバンク左腕・渡辺雄大投手(30)に注目したが、同投手は18日に戦力外通告を受けた。ドラフト会議が終わり、同リーグに出場する選手にとって、戦力外通告は身近にある。必死にアピールを続ける2軍選手の実像を見た。

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投手が1軍で通用する1つの目安に内角球がある。ただの内角球ではなく、左投手(右投手)ならば左打者(右打者)の内角を、厳しく投げきれるかに着目してきた。

左投手を例にする。対左打者の内角球と対右打者の外角球は、その投手を主体にすると、ほぼ似たコースと言える。となれば、右打者の外角に制球できれば、左打者の内角も投げきれると思いたくなる。

ところが、左打者の内角になると難易度が跳ね上がる。

右打者の外角に制球できるのは「外れてもボールになるだけ」という側面がある。投球の場面にもよるが、重圧は少ない。しかし、左打者の内角は制球ミスをすれば死球。当てたくない心理が働く。死球を避けるあまりに厳しく投げるところで失投すると、今度は内角の甘いボールになり、長打の可能性が高まる。

外れてもボールになるだけの右打者の外角球と、攻めすぎても死球、手元が狂うと1発長打の左打者の内角球では、投手の心的負担がまるで違う。

その前提で渡辺雄の投球をみた。8回に5番手で登板。先頭右打者に安打され無死一塁。次打者は左の福田光。左対左となった。

フェニックスリーグの16日ソフトバンク-ロッテの8回表、打者福田光に対するソフトバンク渡辺雄の配球を書き込んだ田村藤夫氏のイラスト。ゾーンの右側が内角、左側が外角
フェニックスリーグの16日ソフトバンク-ロッテの8回表、打者福田光に対するソフトバンク渡辺雄の配球を書き込んだ田村藤夫氏のイラスト。ゾーンの右側が内角、左側が外角

<1>外角直球ストライク

<2>内角直球ボール(意図的に打者をのけぞらせる)

<3>外角スライダー空振り

<4>外角スライダーボール

<5>外角スライダーボール

<6>外角ストレートボール。結果は四球。

3球目までは完璧。2球目を踏まえた3球目の空振りで、理想的な流れで3球で追い込んだ。しかし、その後の制球が甘く、仕留め切れない。左打者の内角を厳しく突けても、それをアウトにつなげる武器にできていない。捕手の立場からすれば、実にもったいない、歯がゆい四球だった。

渡辺雄は背水の覚悟で宮崎に来ていると感じた。必死な思いで投げたであろう内角球の迫力と、それを生かし切れなかった四球に、現状の渡辺雄の克服できそうであと1歩届かない力量が感じられた。

20年9月、ロッテ戦でプロ初登板したソフトバンク渡辺雄大
20年9月、ロッテ戦でプロ初登板したソフトバンク渡辺雄大

CSに向けて調整する主力選手を除き、ここでプレーする選手は2通り。実戦経験を積む選手と、当落線上にあって危機感に直面している選手だ。当落線上の選手にとっては、持てる力を目いっぱい出した最高のプレーが求められる。南国宮崎には、張り詰めた緊張感が漂っていた。(日刊スポーツ評論家)