20年1月からスタートした小谷正勝氏(76)の「小谷の指導論~放浪編」が、今5回の連載で最終回を迎える。来季からDeNAのコーチングアドバイザー就任が決定。コーチ一筋約40年、数多くの名投手を育て上げた名伯楽が余すところなく、「投手論」、「DeNAへの思い」などを語る。初回は「逆球はなぜ、悪いのか」。

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小谷正勝氏(2019年1月撮影)
小谷正勝氏(2019年1月撮影)

19年秋にがんの宣告を受け、巨人の投手コーチを退任した。おかげさまで体調は回復したが、新型コロナウイルスの影響もあって、この2年間はテレビで野球を見る機会が多かった。

来季からDeNAのコーチングアドバイザーのお話をいただき、現場復帰する前に、長年、プロ野球の世界に身を置いた経験、視点から読者の方にお伝えしたいことをしるす。

テレビを見ていると、試合の中で「今のは逆球ですね」「逆球が多くなって、危ないですね」という発言を耳にする。これが正当化されるのは捕手の考え、配球が100%正しいという考え方からなのだろうが、私はそうは思わない。当たり前だが、逆球で打ち取ることは多々ある。

では、なぜ逆球はいけないのか。逆球になる原因から逆算していけば、理由はわかるだろう。

投手が目標に向かって、ボールを投げようとする時、足を上げ、軸足にしっかりと体重を乗せ、体重移動していく。推進力、体や肘をねじる力、(マウンドの傾斜を利用した)落ちる力、腕の振り込みでヘッド(リリース)のスナップを利かせる。

それらのメカニックが1つでもずれたり、飛んだりした時、タイミングがずれ、手投げになる。つまりはボールに力も伝わらず、制球も乱れる。繰り返しになるが、投球フォームで大事なのはリズム、バランス、タイミングである。

逆球の一番の欠点はボールが軽く、いわゆる棒球で打ちやすいことである。シュート回転の傾向も多く、思っている以上にボールはよく飛ぶ。狂いの少ない投球フォームで投げれば逆球は減るし、力が伝わったボールも投げられ、抑える確率も上がる。

逆球で抑えた時は、自分の意思で打ち取っているケースは少なく、相手が打ち損じたケースだろう。自分がミスしても、相手もミスする。これが野球である。私の考えでは配球に正解はなく、打者を打ち取れば正解だと考える。

余談だが、この2年、テレビでメジャーリーグを見る機会も増えた。メジャーの投手と言えば、150キロを優に超える速球で押し、鋭い変化球で抑えるイメージだったが、勝つ投手は逆球が非常に少なく、コントロールの良さが非常に印象に残った。メカニック的にも素晴らしく、投手で一番大事なのはコントロールだと再認識した。(つづく)