田村藤夫氏(62)の新人合同自主トレーニング取材3回目はヤクルト。

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ドラフト1位山下輝(ひかる)投手(22=法大)の言動に、意外性と大物の予感を見た。

左腕の尺骨を疲労骨折しており、キャッチボールはなし。どんなボールを投げるか見たかったが、リハビリ中なら仕方ないと、ランニング、ピッチャーフィールディングに集中した。

ランニングはお世辞にもいいとは言えなかった。188センチ、100キロのサイズは迫力あるが、重そうだ。故障の影響があるのか、走る姿からはピンと来るものは感じなかった。からだづくりをして、慣れるところからのスタートかなと感じながらフィールディングを見ていて、驚いた。

重そうな走り方からは想像もできない機敏さだ。ゴロ捕球して、セカンドスロー、サードスローという流れ。山下は捕球→投球動作までだが、手の使い方が速い。

両手で捕球して、下にある手を送球に備えて上げ、スローイングの姿勢に入るのだが、この一連の動きが素早い。同時に、足の運びも両手の動きと連動している。滑らかな動きで送球までの動作がしっくりくる。ステップと手の動きがシンクロしており、これは鍛えたものというよりも、もともと備えている身のこなしという感じだ。つまり、センスがあるということだ。

重そうな走りと、捕球動作での軽やかさが、大きなギャップとなるのだが、圧倒的に軽やかな身のこなしの方が印象が強い。走り方はコーチに指導を受ければ上達するだろう。リハビリ中で体もしぼれていないだろうし、これからいくらでもやり直しはきく。

しかし、捕球動作にまつわる身のこなしは、教えてすぐ身に付くものではない。プロの世界でも反復練習をして、何とか形になる投手もいるし、結局克服できない投手も多く見てきた。

こうなると、がぜん興味がわいてくる。インタビューの様子が耳に入ってきたのだが、どうやら理想のピッチングを聞かれたらしく、山下は空振りよりも、バットを折りたいと答えていたのにも驚かされた。長くプロ野球の世界にいるが、新人で、空振りよりもバットを折りたいと言った新人は初めてだ。

おそらく、自分の球質に自信があるのだろう。バットをへし折る球質の左腕を考えたが、なかなか名前が出てこない。表現的に例えば「ズドン」系とするならば、右では伊良部、与田が思い当たる。しかし、左となると思い付かない。

ますますピッチングが見たくなってきた。仕上がってきた山下のストレートで、右の大砲なら巨人岡本和、阪神大山、DeNAソトらの内角へ投げ込み、バットを折るところを見てみたいものだ。完成度が高い新人はたくさん見てきたが、リハビリ段階の新人合同自主トレーニングで、こんなにも意外性と期待感を抱かせてくれたルーキーは、はじめてお目にかかった気がする。率直に言って、非常に楽しみだ。(日刊スポーツ評論家)