パ・リーグの発信力が突き抜けている。今月「パーソル パ・リーグTV公式」のYouTubeチャンネル登録者数が、100万人を突破した。試合での好プレーだけにとどまらず、ベンチでのシーンやオフショットなど、ほっこり系からクスッと笑ってしまうニッチなものまで、視点を変えた動画が人気を呼んでいる。仕掛け人の「パシフィックリーグマーケティング」の中村達広制作シニアディレクター(42)に聞いた。

自宅で編集作業を行う「パ・リーグ マーケティング」の中村達広制作シニアディレクター(PLM提供)
自宅で編集作業を行う「パ・リーグ マーケティング」の中村達広制作シニアディレクター(PLM提供)

「これパテレ行きだな」。ファンがあるシーンを、YouTubeのパ・リーグTVで取り上げられると予想することを「パテレ行き」。SNS上でたびたびこのワードが飛び交うようになってきた。パ・リーグTVが浸透してきた証しだ。

中村制作シニアディレクター(以下SD) 本当にありがたくて、自分たちがつくったものにみなさんが乗っかっていただいて、楽しんでもらっているのはいい流れだなと思います。

通常シーズン中の試合日はパ・リーグの公式戦が3試合開催。約3時間ある試合の模様を3画面同時中継で見守り、膨大な映像から1日20~30本の動画を編集しアップする。交流戦では倍の6画面に増える。

中村SD 展開を追うより、3試合をぼんやり俯瞰(ふかん)で見て、ちょっと引っ掛かかれば詳しく見て、動画をつくるかどうか決める。

例えば西武源田の華麗な守備の1シーン。捕球から送球動作までのプレーだけでなく、その裏側を見る。

中村SD 源田選手のプレー後、絶対ベンチの辻監督はいい顔しているだろうなと。推測のもとです。

テレビ番組の制作会社出身。野球中継にも携わった経験と勘がさえ渡る。マルチアングルを駆使し、球場内にある全カメラの映像をリクエスト。テレビで流れない映像を選んで編集する。タイトルをつけ、サムネイルをつくり、試合中にアップ。ものの10~15分間で神業的作業が行われ、ネットの世界に解き放たれる。

チームは中村SDを中心に編集が行われ、ADが2~3人、アップロードやサムネイル作製の運用メンバー2人を含め、常時5~6人で行われる。「アイデアが出ないで困ったり、悩んでも1分考え、ダメなら次にいく。時間は割りきって使うようにしてます」と分刻みの勝負だ。

好プレー集のハイライトはもちろん「まとめるほどではないまとめ」や「きつねダンス」など、野球ファンもクスッと笑える動画がアップされる。チャンネル登録者の48%が24歳以下というデータは、若い世代に受け入れられている証しだ。14年に開設されたチャンネルはハイライト中心だっだが、19年から現行のスタイルになった。およそ3年半で100万人に達した。決して若い世代を狙い打ちしたわけではない。野球に携わるプラットフォームとして、動画1つ1つ積み重ねた結果だった。

中村SD うれしいと思う半面「なんでこんなに数字が出ているのか」と、自分たちがコントロールできていない部分もある。自分がすっごい面白いと思っても、全然反応良くないのもいっぱいありますし、こんなのが見られるのかというのもたくさんあるので。

年間では4000本近い動画を生み出しているだけに、振り返りたくても振り返れない。

中村SD 個人的な1位はいっぱいあるけど、具体的にはパッと思い付かない(笑い)。新しいものを生み出すために、過去のものを忘れるようなところがあります。もちろん反省もあるんですけど。

セオリーというより、直感を頼りにファンの深層心理を突き続けてきた。その原点は、あの選手の豪快な“空振り”だった。【栗田成芳】

(つづく)