今日からは日本の1次ラウンド最大のライバル、韓国を紹介する。過去に何度も死闘を繰り広げた相手。日本で唯一の韓国プロ野球専門のジャーナリストとして知られる室井昌也氏に聞いた。「韓国プロ野球の伝え手」が、総論、投手編、打者編の全3回で語る。【取材・構成=古川真弥】

09年3月、WBC準決勝でベネズエラを破り、大喜びの韓国ナイン
09年3月、WBC準決勝でベネズエラを破り、大喜びの韓国ナイン

韓国でも、WBCは早くから盛り上がっています。何事も直前や、実際に始まらないと盛り上がらないお国柄ですが、今回は違います。理由として考えられるのは、米国代表にメジャーリーガーが次々と参加を表明し、関心が高まったこと。韓国でもメジャーリーグは人気です。そして、大谷翔平選手の存在があります。エンゼルス戦は韓国でも中継されるほど、二刀流への関心は高いです。その大谷選手がWBCに出場することになり、韓国と日本が1次ラウンドで戦うということで、すごく話題になっています。

WBCでの過去の日韓戦
WBCでの過去の日韓戦

実は、韓国では今「球界の危機」が叫ばれています。3つあります。まず、国際競争力の低下。WBCは前々回、前回と1次ラウンド敗退。東京五輪は6チーム中4位に終わり、銅メダルも取れませんでした。次に、世代交代が進んでいないこと。代表メンバーが様変わりしません。最後に、コロナ禍で観客動員が完全には戻らないことです。

08年の北京五輪は若い選手中心で挑み、9戦全勝で金メダルを取りました。そして、09年のWBCで準優勝。そこから韓国のプロ野球は右肩上がりで盛り上がっていきました。ところが、その後は13、17年WBC、21年の東京五輪と低迷したわけです。

過去の韓国WBC成績
過去の韓国WBC成績

原因として言われることは、04年にさかのぼります。高校野球のバットを金属から木に替えました。その結果、遠くに飛ばすよりもコツコツ当て、塁に出たら足でかき回す打者が求められるようになった。投手は、そういう打者を抑えるため、球速よりも制球や変化球を求めるようになった。韓国の選手の良さは粗削りだけどパワーがあることです。プロで大化けするという期待がありました。もともと、国際レベルに合わせるために木製バットを導入したのに、その良さが消え、戦力が平均化してしまった。その影響が国際競争力の低下として表れていると話す人は多いです。

今回WBCで代表が飛躍すれば、危機が解消されるという大きな意味があります。1月早々、首脳陣がオーストラリアへ視察に行きました。初戦の相手です。2戦目の日本戦の結果にかかわらず、初戦を落とせば厳しい。対戦相手の力で言えば日本に次ぐチームと初戦で当たるため、いい意味でピリッとしています。

昔のような「日本には絶対に負けちゃいけない」という空気は、現場にはないですね。日本戦で変なプレーをしたらベンチ裏で先輩に殴られる、なんてことも、かつてはあったそうです。今の選手たちは日本の選手をよく知ってます。「いいよね」と高く評価していて、そういう相手とやれるのを楽しみにしています。

李強喆(イ・ガンチョル)監督は投手として韓国プロ野球歴代4位の152勝を挙げたレジェンドです。代表では、宣銅烈監督の下で投手コーチを務めました。宣さんはカリスマで威厳の人。選手とも距離を取りました。李監督はソフトなタイプ。19年から率いるKTではベテランとも、よく話します。西武にコーチ研修に来たことがあり、バントなども使います。投手起用には自分の考えを持っていますが、自分の色を出してやろうというよりも、戦力を見て、状況を的確に判断する指揮官です。(つづく)

◆室井昌也(むろい・まさや)1972年(昭47)10月3日、東京・豊島区生まれ。日大芸術学部演劇学科中退後、劇団活動、テレビのリポーターなどを経て02年韓国に留学。韓国プロ野球の取材を開始する。04年から著書「韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑」を毎年発行。06年から現地紙コラムニストを務める。20年から沖縄のFMコザで「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」に出演中。ストライク・ゾーン代表。