センバツの特色ともいえるのが、01年から始まった「21世紀枠」。困難な練習環境や地域貢献活動など、特色ある高校が選出される。甲子園に立つ経験は、人生の大きな転機。21世紀枠で出場し、その後プロ入りした先輩のストーリーと、後輩へのエールを届ける。

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観客4万1000人。見上げたスタンドは超満員だった。甲子園がリニューアルして迎えた08年、第80回記念選抜大会。開会式直後の試合に登場したのが、21世紀枠の成章(愛知)だった。エースは現ヤクルト小川泰弘投手(32)。「もう1回、こういう舞台で投げたい」。甲子園はプロ野球選手という夢を再確認し、憧れを強くさせた場所だ。

08年3月、センバツの平安戦で投ゴロをさばく成章・小川
08年3月、センバツの平安戦で投ゴロをさばく成章・小川

1回裏の守備についた瞬間が忘れられない。1球ごとに、地鳴りのような歓声が三塁側アルプス席から湧いた。「感動しました。緊張もあったけど、それよりも地元のために絶対にやってやるんだ、と強く思いました」と振り返る。地元・田原市を中心に約6500人がバス96台で詰めかけ、アルプス席が人であふれた。

相手は、夏春連続出場で“ヒグマ打線”と評された打撃が持ち味の駒大岩見沢(北海道)。足を大きく上げる“ライアン”フォームになる前だが、淡々と制球よく投げ込むスタイルは当時から変わらない。初回2死から、2連打でピンチ。それでも冷静に「打たれて悔いが残るより、1球1球攻め込もう」と直球で内角を突く強気の投球。無失点で切り抜けた。9回を被安打8の2失点、121球で完投し3-2で勝利。1906年(明39)創部の同校初勝利はリニューアル甲子園の1番星になり「OBや地元の方と喜べてうれしかった」と話す。

創価大を経てプロになり、新人王も開幕投手も、リーグ優勝も日本一も経験。それでも、甲子園でしか味わえなかった歓喜があるという。今も、オフには地元での野球教室を毎年行う。「甲子園に出られる選手には、まず思う存分楽しんでほしい。どんな目標も夢も、まずは持つこと。大きな目標があれば、きついことがあっても頑張れる」。自身の今年の目標は、セ・リーグ3連覇と日本一。球児のお手本として、今年も腕を振る。【保坂恭子】