近畿大会の準決勝と決勝を取材するため前週に続き和歌山へ出張した。

智弁和歌山対大阪桐蔭 公式戦29連勝でストップした大阪桐蔭ナイン(撮影・和賀正仁)
智弁和歌山対大阪桐蔭 公式戦29連勝でストップした大阪桐蔭ナイン(撮影・和賀正仁)

【28日】

前日27日、エンゼルス大谷翔平投手の速報後、東京から大阪まで移動。夜はホテルでロッテ佐々木朗希投手の阪神戦登板をテレビ観戦。岩手が生んだ大投手は好投も、揃って白星を挙げられなかった。

翌早朝6時2分、新今宮から南海特急「ラピート」に乗った。紺色のかっこいい車体。関空行きのため泉佐野で各駅停車に乗り換え。7時12分に和歌山市駅に着いた。ここから路線バスで紀三井寺球場へと向かう。駅中のコンビニで弁当を買って7時半発の海南駅行きバスに乗車。先週は乗客も少なかったが、今回は一変。途中、JR和歌山駅に停車するのだが、ここで明らかに野球観戦のファンと分かる人々が大勢乗り込んできた。

バスに揺られること45分。紀三井寺球場最寄りのバス停「競技場前」に到着した。ほとんどの乗客が下車して、急ぎ足で球場へと向かう。すでに予定を30分早め午前7時半に開場されていた。報道受付を済ませて記者席へ。スタンドを見渡すと多くのファンが陣取っていた。

速報の準備をしていると大阪日刊のH記者、S記者も到着。午前10時に第1試合、智弁和歌山-報徳学園が始まった。

1回表、報徳学園は1番堀捕手が先頭打者ホームラン。主導権を握ったかと思われたが3回に智弁和歌山が3点を奪って逆転。その後、智弁和歌山が5-4と1点リードして9回を迎えた。智弁和歌山はプロも注目する187センチ右腕・武元投手が登板。この日は最速146キロの直球で押し外野フライ3本。3者凡退に抑えて逃げ切った。投げ方は悪くないし制球もまずまず。なにより球威が魅力。先発した172センチ右腕の塩路投手は制球力が抜群で確実に試合をつくれるタイプ。スピードも140キロ台前半がコンスタントに出て申し分ない。智弁和歌山はしっかりと投手陣を整備してきた印象だ。

第2試合は注目の一戦。センバツ決勝の再現となった大阪桐蔭-近江。センバツでは大阪桐蔭が18-1で圧勝している。

1回裏、近江が2点を先制した。近江先発の山田投手は前週の奈良大付戦で最速146キロをマーク。6回を無失点に抑えセンバツの疲れから復調。この日も5回まで大阪桐蔭打線を1失点に抑えた。最速も149キロをマークするなど大阪桐蔭の公式戦連勝を止めるべく力投。しかし6回、足がつってしまい無念の降板。直後に同点に追いつかれると8回に大阪桐蔭・丸山内野手に勝ち越し2ラン。9回は7点を奪われ2-11で敗れた。センバツのリベンジならず。再び大差を付けられた。

ただ、山田投手の足がつらなかったら…。という期待は抱かせた。負けはしたが中盤までは接戦。夏の甲子園で3度目の対戦を見たい。

【29日】

決勝戦。午後1時試合開始ということで通常より時間がある。まずは和歌山城へ行ってみることにした。和歌山市駅から徒歩15分ほどで入り口へ。手荷物をどこかに預けてくればよかったものをパソコンの入ったリュックを背負い手にはキャリーバッグ。これが命取りになった。

和歌山城の天守閣は標高48・9メートルの虎伏山(とらふすやま)山頂にある。たかが48・9メートルとなめていた。途中からゴツゴツとした石畳の登り坂。キャリーバッグが転がせず、持ち上げた。汗が吹き出してきた。途中、道を間違え20分。ようやく天守閣の下にたどりついた。バスの時間までまだ30分以上あったがのんびりしている余裕はない。山の上から和歌山市内の景色を見下ろしてすぐに下山。これまたキャリーバッグを転がせない道があり悪戦苦闘。この日の和歌山市の最高気温は30・2度まで上がった。全国的にも猛暑がニュースになったが、そんな日によりによって…。無事、山を降り駅に向かう。「駅に着いたら何か飲もう、いやアイスを食べよう」と気持ちを奮い立たせて歩いた。バスの発車10分前に駅に到着。コンビニで「ガリガリ君」を買い、大急ぎで食べてバスに乗車。9時20分に球場に到着した。入場券売り場はすでに長蛇の列。10時半の開場予定を30分前倒しして10時にファンを球場に入れた。

さて、この日の私は2つのミッションがあった。1つは和歌山城。もう1つが和歌山ラーメン。

紀三井寺球場の入り口に1件のラーメン店がある。前日同僚のH記者に取材したところ「おいしい」と言う。もちろん和歌山ラーメンだそうで「細麺が特徴です」とH記者。開店は午前11時。試合開始は午後1時だから余裕で行ける。記者席で準備をして10時50分過ぎ、店に向かった。

すると店の前には行列が。数えてみると20人ほど。「1回目に入れるのか?」と不安がよぎる。11時ちょうど、店のシャッターが開き、順番に店内へ。私の順番が来た。「1人です」と言うとカウンター席に案内された。よかった、よかった。

注文したのはランチの「ミニ焼きめしセット」(900円)。待つこと7分ほどでラーメンと焼きめしがやってきた。「ミニ」とはいえ焼きめしは普通の1人前はありそうだ。ラーメンのスープをすする。ややどろっとしたしょうゆ味。確かにうまい。麺は細麺。薄く切ったチャーシューが3枚とメンマ。パラパラとふりかけられたネギがいい。焼きめしもいける。10分ほどで平らげ、おなかいっぱい。大満足。水をコップ2杯飲んで後ろをふり返ると約30人ほど入れる店内はいっぱい。某球団のスカウト氏もラーメンをすすっていた。勘定をすませ外に出ると早くも第2陣のお客さんが行列をつくっていた。

和歌山ラーメンとミニ焼きめし
和歌山ラーメンとミニ焼きめし

これで2つのミッションが完了。朝から汗だらだらで動き回りもう東京に帰りたい気分だが、そうはいかない。仕事、仕事。

公式戦30連勝を狙う大阪桐蔭と昨夏の甲子園王者・智弁和歌山。試合は智弁和歌山の1番打者・山口外野手の先頭打者ホームランで幕を開けた。この後、智弁和歌山は2死満塁から7番坂尻内野手が平凡な遊ゴロ。攻撃終了と思いきや大阪桐蔭・鈴木内野手がファンブル。さらに焦って二塁にトスしたがこれが大きく逸れてしまった。二塁走者まで一気にホームイン。大阪桐蔭のまさかのダブルエラーで2点を追加。1回に3点を先制した。

それでも大阪桐蔭は1、3回に1点を返し1点差で中盤へ。しかし、4、5、6、7回と安打の走者を出すものの追いつけない。8回は3者凡退。9回は先頭打者が安打で出塁。送りバントで1死二塁と形をつくったが後続が倒れ試合終了。ついに連勝が止まった。

この試合、智弁和歌山は4投手の継投で1点差を守り抜いた。先発の変則左腕・吉川投手が3回。2番手の右腕・西野投手、3番手の左腕・橘本投手が1回ずつ。そして6回からは前日もリリーフで1回を無安打無失点に抑えたプロ注目右腕の武元を投入。4回を3安打無失点に抑え逃げ切った。

投手の交代というのは難しい。プロ野球でも監督の仕事で一番難しいのが投手交代と言われる。打たれてから代えるのでは遅い。いかに打たれる前に代えて相手の攻撃をしのぐか。難しい継投をプロ出身の智弁和歌山・中谷仁監督が見事に成功させた。

投手の交代はすべて回の頭から。左-右-左-右と目先も変えた。智弁和歌山には前日の準決勝で8回を投げたエース塩路、さらに2年生投手2人も控えていた。武元投手が終盤つかまるようなことがあれば、さらに継投をを考えていたかもしれない。智弁和歌山の継投策。センバツで11本塁打を放った大阪桐蔭の強力打線を抑える大きなヒントになったに違いない。

優勝した智弁和歌山には地元ファンから大きな拍手が送られた。名将・高嶋仁前監督は攻撃野球で一時代を築いた。一方で、引き継いだ教え子の中谷監督はプロ出身らしい緻密さを「高嶋野球」にプラスアルファした感じがする。高嶋監督時代の智弁和歌山の野球には豪快さに加えどこか「おおらかさ」が感じられた。「5点取られたら6点。10点取られたら11点取って勝てばいい」。中谷監督は「5点取ったら4点以内に抑えよう」。微妙な違いをこの日の試合を見て感じた。

敗れた大阪桐蔭。初回の3失点を最後まで取り返せなかった。先発の2年生左腕・前田投手は2回以降は走者を許しながらも無失点。これはこれで見事だったが、やはり昨年秋の明治神宮大会や今春センバツの快投と比べると物足りない。神宮でも甲子園でもまさに「無双」していた。スピードは140キロ台前半。多彩な変化球で打たせて取る技術は素晴らしいがやはり奪三振4は少ない。相手に考える余裕を与えず、テンポよく、制球よく投げ込む姿をまた見たい。

大阪桐蔭の強さは、良い選手が集まっているからではない。集まった良い選手が手を抜かず全力で戦っているからだと思う。エリート集団が泥くさく、ひたむきに目の前の相手に立ち向かっていく。レギュラーも、控え選手も、ボールボーイでさえ常に全力。見ていて気持ちがいい。公式戦の連勝は「29」で止まったが、この敗戦を糧にさらに強くなるのではないか。夏の本番を前に和歌山での暑く、熱い戦いが終わった。【デジタル編集部 福田豊】

大阪桐蔭に勝利し応援団にあいさつに向かう智弁和歌山ナイン(撮影・和賀正仁)
大阪桐蔭に勝利し応援団にあいさつに向かう智弁和歌山ナイン(撮影・和賀正仁)