長く厳しい冬を乗り越えた盛岡大付に、春が来た。今年は盛岡市でも10年ぶりの積雪を記録するなど厳しい冬だった。

盛岡大付の選手たちは、地道な雪上での打撃練習と、トレーニングでパワーアップ。25日(12時30分試合開始予定)春季岩手大会地区予選の初戦に臨む。

2月-マイナス2度。朝から猛吹雪の某日。選手たちはどんな毎日を送っているのか。盛岡大付の3日間を密着した。

雪で一面覆い尽くされたグラウンドにも、金属バットの音と、選手の元気な声が響き渡る。驚いたことに、春夏合わせ甲子園15回出場の強豪校でも、室内練習場がない。しかし、そんな環境を吹き飛ばすように、選手たちはスパイクから長靴に履き替え、雪上で打撃練習を行っていた。何度も何度も振り込むため、足元の雪は削られ、いつしか泥水に。それでも、選手たちはバットを振る手を止めなかった。

すっかり冷えきった選手たちを待ち構えるのは、20年春に新築された「清瞬寮」。関口清治監督(43)はこの寮に指導の原点回帰を重ね合わせた。

今年で監督就任13年目。「実は、長くやっていると、就任当初持っていた勝った喜び、負けた悔しさが年々慣れてきたと言うのでしょうか。感動が薄れてしまっていたんです」と振り返った。

なぜだろうー自問自答の末、関口監督が出した答えは「選手との関わりが薄くなってきたから」。コーチ時代や、監督就任当初は、選手とともに寮で寝食をともにしていた。グラウンドでは厳しくも、寮に帰ると選手にとってはいい兄貴分。会話を重視し、悩みにもとことん耳を傾けた。

しかし、この3~4年は寮の管理をコーチに任せきりに。「以前は、選手との会話が多かったので、私がどんな人なのか選手たちはわかっていたはず。でも、寮生活から離れてしまい、関係が薄くなっていた。もっと、コミュニケーションをとっていれば、もっと勝てたかもしれないと思うんです」。選手の素顔が分かっていれば、監督からかける言葉も変わっていたはず。「一方的にならずに普段の彼らを見ながら、コミュニケーションが取れたらよかったと思うんですよね」。

現在、関口監督の自宅は寮に隣接しており、頻繁に行き来できるようになった。また、夫人も寮母を務め、選手の日常から目を離さない。「清瞬寮」のモットーは「アットホーム」。「寮っぽくないというか。自宅に帰ってきたような。寮っぽくない空気を作りたかったんです」と関口監督。 自慢は、食堂に設置されたカラオケとミラーボール。月に1度は誕生日会が催され全員でケーキをいただく。時には、「オマエ、彼女いるのか?」「ハイ…。実は彼女ができました!」「おー、よかったなぁ」そんな何げない会話で盛り上がることもある。「学校、グラウンド、寮の行き来しかない子どもたちなので、普通の高校生がやることを体験させてあげたいんです」。かつての「兄貴分」から、現在は選手たちの「オヤジ」に。「モリフファミリー」は、寒い冬でも明るい選手たちの声で満ちていた。

「清瞬寮」新築から1年。監督と選手、ともに厳しい冬を乗り越え、戦いの春へ。「もし、今年の夏、甲子園に行けないと、私が監督になって初めて、3年甲子園から遠ざかってしまう。この学校に入学したからには、1度は甲子園を経験して欲しい。なんとしても今年の夏は結果を残したいんです」と、熱い思いを込める。夏への前哨戦。春、東北王者を目指す。【保坂淑子】