21世紀枠は今年で18年目となる。由利工(秋田)膳所(滋賀)に続き、この日は伊万里(佐賀)が登場したが、すべてが初戦敗退した。存続を巡って議論があるのも事実だが試合後、伊万里の監督、吉原彰宏(43)は言った。「いろんな人のいろんな思いが実って我々がここに立っている。結果ではなく21世紀枠として、どういう戦いをするか。それが今後を決めると思う」。大阪桐蔭に大差で負けた直後、球場を包んだスタンドの拍手はその答えだと信じたい。

 伊万里ナインは地域を支え、地域から支えられて、甲子園の舞台を踏んだ。吉原が監督に就任して以来、部員は毎年少年野球大会の審判を務めてきた。部長の草津泰英(55)は「せっかく少年野球チームで野球をしていても、その後野球から離れる子供も多い。そのまま野球を続けていってもらいたい。さらに将来性の高い選手が、県外に出て行くのも多い。それを何とか食い止める意味もある」。佐賀出身の大阪桐蔭の柿木は、まさにその例だった。さらに夏前には「伊万里市長旗」という市内大会を、小、中、高校が同じ日に同じ会場で行ってきた。これも「縦のライン」を強固にして「先輩たちに続け」という気持ちになってもらいたいという思いがある。

 13年6月、伊万里OBでもある伊万里市の塚部芳和市長(68)もサポートし、「目指せ甲子園! プロジェクトチーム」を設立。毎年2月、中学生対象に社会人野球の西部ガス(福岡)の野球教室を企画し、中学生が硬式に慣れるための「伊万里ベースボールアカデミー」も開催した。昨秋の大会前に地元企業が伊万里高校に打撃マシンを2台寄付。2カ所で行っていた打撃練習が4カ所に増えた。

 佐賀高野連理事長、吉富寿泰(51)は、思いを1月26日のセンバツ選考委員会でのプレゼンテーションに込めた。福岡市にあるキャビンアテンダント養成の会社に出向き、有料で3時間講演を受けていた。「プレゼン」の「個人レッスン」の成果は伊万里の21世紀枠決定につながる。「とにかく同じことを2回繰り返して強調した。九州大会出場は67年ぶり、佐賀からセンバツに10年出ていない。67年ぶりと10年は2回繰り返した」。過去、佐賀商と佐賀北が夏選手権で優勝を経験。「自分たちでもやれるんだと励みになっている」。吉富理事長は「がばい旋風」で優勝した佐賀北の当時の部長でもある。「チーム佐賀」の努力が実っての伊万里の出場でもあった。

 野球部は効率化に努力した。学校の一塁側ベンチには、大きなデジタル時計が設置され、分単位で練習が進められる。女子マネジャー全員が笛、メモ帳、ストップウオッチを持って、ティー打撃では2秒で1本、素振りは5秒に1本、ブルペン投球は5秒に1球ペースを守らせる。平日週3日の練習時間が1時間半と少ない公立校でも甲子園でプレーできた。グラウンド上の戦いだけでなく、球児とその周囲のストーリーもある。(敬称略)【浦田由紀夫】


21世紀枠出場校成績
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