日本中学硬式野球協議会は13年9月、中学生投手の投球障害を予防するために「中学生投手の投球制限に関するガイドライン」を制定したことを発表した。試合での登板は、次の通りに制限された。

「1日7イニング以内とし、連続する2日間で10イニング以内とする。また、1日に複数試合に登板した投手及び連続する2日間で合計5イニングを超えた投手は(5イニングは可)、翌日に投手または捕手として、試合に出場することはできないものとする」

3年夏に右肘を疲労骨折しながら、甲子園で全773球を投げ抜いた沖縄水産の大野倫は現在、うるま東ボーイズで監督を務める。九州共立大で野手に転向した大野は「自分のような選手は出てほしくないです」と願いながら、障害予防にはルール作りが最も大事だと訴える。

大野 ルールがあれば従うしかないし、迷うこともないです。試合になれば勝ちたい気持ちから、判断が難しくなりますから。

大野自身、98年夏に横浜(神奈川)のエース松坂大輔(現中日)が明徳義塾との準決勝で9回から登板した時、「よ~し、そうだろう」と声を上げた。前日にPL学園との準々決勝で延長17回、250球を投げ抜いたが、松坂のおとこ気に自然と共感した。

選手、監督の立場でも、継投の難しさを知る。だから、ボーイズリーグの現行のルールを歓迎し、チーム内では障害予防に向けた体づくりを徹底する。2・2リットルの弁当箱を義務付け、練習の合間にはゆで卵を食べることを推奨。選手たちには「必ず、何かあれば報告しなさい」と隠すことを禁止する。

ガイドラインには「障害予防のための指導者の義務」も定められる。その5項目の1つに「選手の投球時の肩や肘の痛み(自覚症状)と動き(フォーム)に注意を払うこと」とある。

巨人ドラフト1位の鍬原拓也は、橿原磯城シニアに所属した中学時代に右肘を痛めたが、指導者の制止で悪化を防いだ。中2の3月に行われた春の大会は痛みを隠しながら、試合に登板したが、直後の練習中に「痛いんちゃうか?」と聞かれ、指導者から投球禁止を言い渡された。

鍬原 春の時点では、僕しか投手がいなかったんです。でも、勝ちたかったんで無理して投げた。

同シニアでコーチを務める木下大輔は、この点に注視する。「『勝ちたい』という気持ちをどうコントロールするかが大事なんです」。主力の選手は「勝ちたいから」と故障を隠し、レギュラー当落線上の選手は「試合に出たいから」と自分の中に留める。その思いが重大な障害になる。

同シニアでは練習試合でも球数を設定し、投手を起用する。指導者は目を光らせ、投球中に少しでも異変を感じれば「指導者の判断で投球を禁止する」。

故障判明後、鍬原は約1カ月ノースロー調整し、6月ごろから投球練習を再開した。鍬原は当時を回想しながら、こう言った。

鍬原 後々のことを考えれば、早い段階で投げるのをやめて良かったです。中学生ではなかなか痛いと言えないので、ルールや助言は大事だと思います。

真剣勝負である以上、そこにはさまざまな思いが介在する。未来ある選手を守るために、障害予防への意識や対策は、今後も重大なテーマである。(敬称略=おわり)

【久保賢吾】

(2018年4月28日付本紙掲載 年齢、肩書きなどは掲載時)