全国高校野球選手権大会100周年企画「未来へ」の第3回は、甲子園通算最多63勝を誇る智弁和歌山・高嶋仁監督(68)と、同3位タイ51勝の帝京(東京)前田三夫監督(65)との「東西最多勝対談」(横浜・渡辺元智監督も東日本最多タイ)後編です。2人の出会いから約20年、時代とともに変化する高校野球、指導法、さらには甲子園の戦い方…。尽きることのない野球談議が続いた。【取材・構成=堀まどか、前田祐輔】

甲子園の監督通算勝利10傑
甲子園の監督通算勝利10傑

 甲子園で白星を積み重ねてきた両監督。慣れ親しんだ甲子園での戦い方にも、独特の方法がある。

 高嶋 選手には「お前らと1日でも長く甲子園にいたい」と言うだけ。頼むから1回戦は勝ってくれと。1つ勝つと、その間に夜出て行けるんですよね。

 前田 どこへ行くんですか(笑い)。

 高嶋 それは内緒ですけどね(笑い)。甲子園で選手と一緒に晩飯を食べたことは、ほとんどないです。うちのやり方は、宿舎で、起床と消灯はないんですよ。外出自由です。天国ですよね。昼寝OKで、1人1部屋で。ただ朝飯何時、晩飯何時と、これに遅れたら和歌山に帰らせるんです。

 前田 強制はしないということですね。

 高嶋 明日のこと考えたら、何時に寝なあかんというのは、自分で考えなさい。それが分からないんだったら、帰れと。今までで帰らせたのは1人だけなんですね。彼らは甲子園が決まると天国なんです。

 普段の練習が厳しい分、甲子園では調整に充てる。選手を大人扱いするのも、勝利を積み重ねた1つの要因なのだろう。

 前田 智弁和歌山は合宿所はあるんですか。

 高嶋 寮も何にもありません。みんな通いです。

 前田 うちも合宿所はないからね。

 高嶋 大阪桐蔭の藤浪(現阪神)とかね、あれぐらいの選手は来ない。1学年10人で、県外は2人だけ。環境は悪いんです。でもよその学校とは違うハングリー精神は持ってますからね、その代わりに。

 前田 やっぱりそういうものを植え付けさせないと、合宿所を持っている学校には勝てないだろうな。うちなんか、グラウンドをサッカーと共用していた時は、グラウンドを持っている学校には負けない、非常に強いものがありましたね。優勝したのもみんなその時期ですし。ハングリー精神を、今の子たちに持たせるというのも、どんどん難しくなってきているけどね。

 高嶋 あまり恵まれた環境では強くならないんですよ。精神的なものが高校野球は大きいですからね。(つづく)