試合のない日、タイガーデン(鳴尾浜球場)へ取材に行った。昼から紅白戦を行う予定だと聞いて、何か目新しい話題が出てこないものかと期待して足を運んだ。

 どうも天気が悪い。朝から時折雨が降っている。秋雨前線が停滞していて、いつ雨が落ちてきてもおかしくない空模様。なんとか午前中の練習を終え、昼食もとって、いざ本番となった途端、雨脚が強くなり、グラウンドは瞬く間に水浸し。古屋監督「明日も台風で天気が悪そうだし、なんとか今日はやりたかったのに―」と、うらめしそうに雨空を睨んでいたが、自然には勝てない。紅白戦はいたしかたなく中止。

 こちらとしても拍子抜け。早速取材に走ったが狙いが定まらない。やや焦り気味に選手がたむろするロッカーへ行ってみると、一番手前でバット等用具をまとめていたのが、北條史也内野手(21)だった。今シーズンこのコーナーに登場するのは2度目だが、成長度からみて1軍に最も近く、すぐにでも手の届く存在であったはずなのに、どうも調子が上がってこない。気になっていた選手の1人だ。足踏みをしている現状をのぞいてみることにした。本人の言う「バッティングも守備面も、なぜか雑になっているんです。これではいけないのはわかっていますが、粘りもないんです」が不振の原因。思うように調子が上向いてこない。弱音を吐かない男もインタビューに応じる表情がいら立って見える。八方塞がり…。いや、いや。かなり悩んではいるようだが、そんな弱い選手ではない。

 前回にも触れたように地道な努力によって、プロの体になってきた。心技体。プロ野球選手として形がついてきた。入団3年目。今季は定着とはいかないまでも、何度も1軍に昇格して、ひのき舞台で虎ファンに存在をアピールするまでの力をつけていたとみていたが、シーズン当初1度経験しただけで鳴りを潜めている。なぜ…。1軍レベルから見た北條の現状を古屋監督に聞いてみた。「我々も1軍に近い選手として期待しています。よくマウンドに行ってピッチャーに声をかけていますし、技術面だけを評価するのではなく、そういう気配りもできる頭のいい選手とみています。せめて2割7、8分は打っていてほしいですね。特に今年は8月頃からプレーが雑になっています。バッティングではバットの振りが大振りになっていますし、守りでは打球に対していまひとつ足が運べていません。残り試合は少なくなりましたが、これからもどんどんハッパをかけていきます」。思惑どおりにいかないまでも、さらなる期待を寄せていた。

 確かに1軍レギュラーとなると正直いって、まだ力不足。では、定位置を確保してペナントレースでコンスタントに力を発揮するための必須条件とは―。掛布DCが熱っぽく語ってくれた。自身、阪神に15年在籍して8年連続して“4番”を張った人。「そうですねえ。やっぱり心技体すべてが整っていないと一年を通してコンスタントに力を発揮するのは無理でしょう。それと頭脳ですね。常に次のプレーを頭に入れた動きが要求されますし、とっさの状況判断や過去に対戦した時の記憶も大切ですから。むずかしいね。フルシーズンは結構長くて体力は必要ですし、技術向上のための激しい練習も体力がないとついていけません。やはり基本は体力ですかねえ」。そういえば日本一に輝いた年の主力。DCをはじめ岡田、バース、真弓。群を抜いた体力の持ち主だった。

 強い体。弱音を吐かない性格。頭脳明晰とあればレギュラーを張る要素を持った選手だ。練習熱心。夜間練習を含めタイガーデンの施設を大いに活用。一段一段階段をしっかり踏みしめて成長してきた。最近は攻守両面にやや精彩を欠いていたが、与えられた試練は自分に打ち克つチャンスだと思え。「テーマですか…。今、自分に言い聞かせているのは粘りです。アピールしていきたいのはバッティングですが、雑になって粘りがなくなっているから、四球の数が昨年より減っているんです。もう残り試合はわずかですが、そのあとフェニックス・リーグもありますので、ひとつひとつのプレーを大事にしていきたいと思っています」(北條)。昨年はウエスタン・リーグで一番多くの四球を選んでいる。選球眼はバッティングには欠かせない技術のひとつ。やっと調子は上向いてきた。現在6試合連続安打を継続中。鳥谷に追いつき追い越す日は必ず来る。