「今日は、走塁を重点に」の思いで5月11日鳴尾浜球場の阪神-中日戦を取材した。チーム、個人の盗塁数など記録に目を通してみる。“足”となるとやはり注目は熊谷敬宥内野手(立大)、島田海吏外野手(上武大)の両ルーキーだろう。スタメンの発表が始まった。場内アナウンサーの声に耳を澄ましていると、1番レフト島田、2番ショート熊谷ときた。浜中バッティングコーチに聞くと「この1、2番は今年初めてです」と言うではないか。私の願いが通じたかのようなコンビが並んだ。「何か見せてくれるのでは……」期待を込めてゲームに集中した。

島田海吏(2018年2月16日撮影)
島田海吏(2018年2月16日撮影)

 初回から注目のシーンが--。島田が四球で出塁すると3球目すかさず二盗。「う~ん。なかなかやるわい」楽しみがさらに膨らむ。次は何をしてくれるだろう。ますますその気になりかけたが、前向きに試合を見たのはここまで。二盗直後に敢行した熊谷の送りバントはなんと捕邪飛。それどころか、今度は3回の島田だ。遊失と右前打でつかんだ無死一、二塁のチャンスで行った送りバントはピッチャーの真正面。あまりにも正直すぎて三塁でみすみすフォースアウト。矢野監督は「ヘタというより、これまでこういう機会があまりなかったので……。これからしっかりできるように指導していきます」と新人をかばったが、両選手、タイプとしては攻守にわたって細かいプレーはきっちり決めないといけない選手。こういうことをしていると、首脳陣としては1軍昇格の推薦に二の足を踏むことになる。

 熊谷、島田ともに大学出身であり、両選手のタイプもあって苦言を呈したが、ファームとはいえ足という持ち味は十分に発揮している。熊谷など39試合に出場して19個の盗塁を決めている。目下ウエスタン・リーグでトップ。シーズン当初藤本守備走塁コーチは両選手の成長課題を「自分が相手バッテリーを意識するのではなく、相手に意識させるというか。ランナーの方が走るための主導権を握る工夫ですね」と語っていたが、これだけ走れば相手バッテリーは当然意識する。意識過剰になることもあるはず。相手の意識は主導権を握った証。頼もしい存在になりつつある。

熊谷敬宥(2018年4月14日撮影)
熊谷敬宥(2018年4月14日撮影)

 「余分なことは考えず、普通にスタートが切れるようになりました。振り返ってみると、もっと走れていたと思います」は熊谷。「そうですねえ。だいぶ慣れてはきましたが、プレーひとつひとつはまだまだです」は島田である。2人の話が現在の盗塁数に表れている。失敗した数を見ても熊谷は盗塁企図22回で3、島田は20回走って“9”。両ルーキーの話を聞いて共通していたのは「競争相手が身近にいるのは刺激があっていいです。それとノーサインで、自分たちのペースで走らせてもらえるので、自分の持ち味をアピールするにはありがたいです」だった。内野手と外野手。ポジション争いこそないが、良きライバル心は成長に欠かせない励みになっている。

 現在、足では熊谷、バッティングでは島田が1歩リードといったところ。熊谷の場合、プロ入りしてからスイッチヒッターに挑戦したのが打率の低迷につながっているとも言えるが、この日の試合、5回に勝ち越しの右前打を放ったのは島田で、さらに追加点を挙げる左前打は熊谷である。この時点で両選手がベース上に残って1死一、二塁。ダブルスチールなど2人の果敢な共演を期待したが、続く北條が2球目を左翼へホームラン。残念ながら揃い踏み(重盗)は次回に持ち越されたが、まだ若い。今後が楽しみだ。2人の勝負はこれからだ。もっともっと苦しむのもこれからだが、チーム作りには欠かせない存在。1、2番、固定できるまでに成長するなら、生え抜きという心強いコンビが誕生する。

熊谷敬宥(左)と島田海吏(2017年12月3日撮影)
熊谷敬宥(左)と島田海吏(2017年12月3日撮影)

 矢野監督「2人ともノーサインです。あの足は魅力ありますからね。現在は熊谷の思い切りのいいところが数字に表れていますが……」と見ている。鍛え甲斐がある。腕の見せどころだ。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)