優勝--。リーグ戦、トーナメント、個人競技等々、いずれの大会でも一番の目標は頂点に立つことである。プロ野球界のペナントレースでも、1軍が優勝にかける意気込みは半端ではないが、ファームに限っては各チーム、リーグ戦を展開しながらも1軍ほど勝ち負けにこだわっていない。何故……。

あくまでも「選手育成の場」であるからだ。勝敗は「1軍ありき」であって、ファームの勝率を上げるために選手の強化をしているわけではない。極端に言えば2軍は故障者など、1軍から降りてきた選手ばかりでボロボロのチーム状態になっても、1軍がペナントレースでいい戦いができるように選手を育てて送り込むのが理想。ウエスタン・リーグを制するのは二の次だが、今シーズンの阪神を例年通り鳴尾浜球場、甲子園球場で行われた全試合色々な角度から拝見してきたが、今、現に“優勝”の2文字が目の前にぶら下がっている。

さあ、どうする。矢野監督に聞いてみた。「ここまできたら優勝してみたいですね。選手にとっても自分の持ち味を磨き、状況に応じて自分のやるべき事をきっちりやれるようになった結果が現在に繋がっているわけですし、もう残り試合は少ないが、勝つためにやるべき事の勉強にもなるでしょう。勝つ喜びを味わえるのもいい経験になると思います。それと、やっぱりファンの方々ですね。勝てば喜んで下さいますし、皆さんのためにもいいところを見せたいです」である。私は思う。確かにファームの優勝は副産物だろうが、選手成長のプロセスは勝ち試合による経験からつかむことの方が多い。自信になるのも確かだ。

今シーズンの阪神。1軍のペナントレースを見る限り得点能力に欠ける試合が目立った。ランナーは出るが、適時打が出ない。ついに借金は10と低迷しているが、ファームに至っては66勝37敗7分けでトップを走っている。2位ソフトバンクとはゲーム差4(9月17日現在)。突出した選手はいないが、江越が15ホーマーでホームランダービーのトップ。新人の島田が25盗塁で目下盗塁王とはとはいえ、あまり印象に残っているような活躍とは言えない。

積極性が勝利を呼んだ。先日(9月12日)のオリックス戦で、今シーズンのチーム盗塁数を「158」に伸ばし、13年にソフトバンクが記録した156を塗り替え、ウエスタン・リーグの新記録を樹立した。この積極的な攻撃が相手チームの意識過剰を引き出し、自然にゲームの流れを自チームに呼び込んでいた。矢野監督の「最多盗塁を目指していたわけではないけど、(新記録が)出たということは個人、チーム全体としても自信にしてもいい。盗塁は打席同様に積極性がないと達成できなかったこと」がすべてを物語るように、同監督自身が打ち出した“積極性”のスローガンが浸透してきた証しでもある。

1、2軍とも早くもシーズンの終盤を迎えている。チームとしては高山、中谷の誤算はあった。昨年同様藤浪の完全復活はならなかったし、ロサリオ、ナバーロの両外国人選手も期待を裏切った。それにしても北條のリタイヤは痛い。ファームで汗と泥にまみれた練習を積んで昇格。打率は3割をキープ。コンスタントに働ける力をつけて1軍に定着できるところまで来たと思われた矢先の故障。少しでも早い復活を祈るばかりだが、同じくファームから昇格した陽川、大山にも奮起してほしいね。

北條、陽川、大山が鳴尾浜球場で練習していた姿は今なお記憶に残っているだけに気になるが、ファームの残り試合はあと6。19日からは当面の相手ソフトバンクとの3連戦が控えている。当初は3試合とも鳴尾浜球場で開催する予定だったが、胴上げの可能性もあり得ることから20日、21日の試合を急きょ甲子園球場に変更した。結果に注目したい。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)