大腸がんの手術後、初めて屋外でフリー打撃を行った阪神原口文仁捕手(2019年4月16日撮影)
大腸がんの手術後、初めて屋外でフリー打撃を行った阪神原口文仁捕手(2019年4月16日撮影)

青空が気持ちいい。4月16日の鳴尾浜球場で“大腸がん”からの復帰を目指す阪神原口文仁捕手が、術後75日目で初の屋外フリーバッティングを行った。明るい前途を見通しているかのような快晴の中、桧(ひのき)舞台に向かって力強い大きな第一歩を踏み出した。

突然、大腸がんを宣告された。昨年オフ、人間ドックを受診した際の出来事だった。まさかの診断。全く想定外の結果には「正直、信じられなかった。ショックでした」当然だろうが、原口のすごいのは苦境に立っても前向きになれる強い精神力を持ち合わせていること。「入院中は、必ずユニホームを着てグラウンドに立つ」ことしか考えていなかったという。いかにも原口らしい一面だが、さらに開設したツイッターで「同じがん患者の方々。またその後、家族の方々にとって、少しでも夢や希望となれるよう、精いっぱい治療に励みたいと思っています」と自分自身も苦しんでいるときに発信できる気遣いはさすが。こういう男である。

半端じゃない生真面目な男。あの衝撃的な話題が飛びかった中でも、私は「彼なら必ず復帰する」と信じていた。振り返ってみる。1月24日大腸がんを公表。同31日手術が無事終了。2月6日退院。同14日球場でのリハビリ開始を報告した。そして3月4日にはがん患者の支援活動の実施を発表。同7日、ついに鳴尾浜でトレーニングを開始するまでに回復した。一段ずつ着実に階段を登って屋外でのフリー打撃へ。元気です。頑張っています。

いよいよ本格的なスタートだ。バッティングの感覚は「やっぱり室内で打つのと屋外で打つのでは、気分も違うし感覚も違いますね。マシンでは前に飛ばなかったりミスショットが多かった。もっといい感じで打てるよう、このギャップをこれからの練習で埋めていきたい」約80スイング、確かにまだ本来のシャープな切れ味はない。病み上がりである。当然のことだろうが、もう10年目を迎えベテランの域に入ろうとしている選手だ。現状の練習の中でも自分で判断してブルペンに入り、ピッチャーの投球を受けている。

平田勝男2軍監督も「原口は間違いなく復帰してくるでしょう」と語っていたが、野球に取り組む姿勢など手抜きはしない同選手の性格を知っての発言だ。そういえば先日(4月10日)ゲームが雨天中止となって、甲子園球場の室内で練習していたときのこと、佐野仙好スカウトと原口の3人での会話の中で同選手いわく「一応、目標としてはチームが12日から10日間の遠征から帰ってきて、そうですねえ、今月末ぐらいにはチームと合流できたらと思っているんです」という話が出てきた。もちろん、目標は原口が独自で決めていることだろうが、今回のバッティング開始は、自分で描くチーム合流の予定を計算した上での始動かもしれない。

その点の進行状況を杉本一弘副寮長兼トレーナーに聞いてみると「確かにもうブルペンにも入っていますし、ほとんどのことはこなしています。順調に回復はしていますが、今年の彼はキャンプをしていないわけですから、どうですかねえ」という。その通りである。今シーズンに限ってはキャンプに参加しておらず、体は十分に鍛えていない。ゲームともなれば無理な体勢でのプレーが要求される。故障につながりかねないだけに難しいところだ。

原口本人は「順調にしっかりと練習を積み重ねてきましたので、いい状態になっていると思います。大体の動きはできていますので、量をこなしていけば問題ないと思います」やる気十分。がんを宣告された。大ショックを受けた。不安に襲われた。人知れぬ苦しみを抱えた。病魔を乗り越えた。やるっきゃない。必死のパッチで頑張れ。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)

阪神のユニホームで会見に臨んだ原口文仁は笑顔を見せる(2019年3月7日撮影)
阪神のユニホームで会見に臨んだ原口文仁は笑顔を見せる(2019年3月7日撮影)