こんな話をこの欄で書く機会もあまりないと思うので、お時間のある方は、ちょっとだけお付き合いくださいませ。

 日刊スポーツ大阪本社に入って最初に報道部、東京本社でいうところの文化社会部に配属され、芸能担当のまねごとをやっていました。中心は演劇・演芸。それこそ歌舞伎からお笑いまでいわゆる舞台系のもののカバーでした。

 時期を正確に覚えていないのですが資料によると92年のよう。南座(京都)で8月に行うミュージカル「ドラゴン・クエスト」の記者発表を行うので参加しなはれ~というお誘いがありました。京都なので。

 売り出し中のアイドル・グループ「SMAP」が主演する話題の公演だという。いまいち若手タレントに疎かった私は、すでにテレビにも出ていた「SMAP」の名前は知っていましたが、メンバーの顔や名前はよく知らなかった。

 おまけにひねくれ者なので「売り出し中のアイドルが1カ月も京都におるんかいな?」と、訝しみながら、京阪電車に乗りました。

 その記者会見は南座の前を走る四条通を挟んで正面にある老舗レストラン「菊水」で行われました。5階建ての同店の3階を貸し切って開催されたのです。念のために書けば1、2階は通常営業していました。

 当時は電車接続のタイミングを調べるスマホもなく、会見の時間に遅れてはいけない、ということで焦っていくと1時間も早めに到着してしまった。手持ちぶさたもあって、2度目のトイレに行ったときの話です。

 長髪の若者が洗面所の鏡でさかんに髪形を直しています。「なんやろ、この兄ちゃん? 普通の営業は2階までやのに。わざわざ3階のトイレまで上がってきて髪の毛直してるんかな。ややこしいやっちゃな」。うかつな私はそう思い、ジロジロ見てしまいました。

 すると、整った顔立ちをしたその若者も「なんだよ?」という感じでジロリとこちらを見て、それでも視線は鏡に戻ります。

 そんなに髪形が気になるんか。何の仕事してるんやろ? 大学生? しかしなかなか鋭い目つきやないか。そう思いつつ、記者会見場に戻りました。

 しばらくして、いよいよ会見が開始。司会者の紹介で「SMAP」のメンバーが登場してきました。

 「あら」

 さきほどの若者が壇上にいます。司会者から「木村拓哉さんです」と紹介されました。あの若者、つまり木村氏は「関西の記者さんは厳しいというので覚悟して、ここにやってきました!」などと笑顔で晴れやかにあいさつしています。

 それからの“キムタク”の活躍についてはここで言うまでもありません。今回の世間を賑わせた騒動、当時の自分の不明を恥じつつ、あの視線のことを思い出していました。

 52歳になった私は、若い選手、あるいは記者、関係者と接していて正直、世代間ギャップのようなものを感じることも少なくありません。それでも今も昔も、上を目指す若者の「やったるで!」というまなざしに触れるのは、きらいではありません。

 まだ世間を知らない不安を無意識に感じつつ、それを吹き飛ばすようなパワーに、こちらも「まだ負けんぞ」と元気をもらえる気がするからです。

 おべんちゃらではなく、当時19歳だった木村氏の目からは、まさにそういう感じを受けたものです。

 プロ野球は2月1日から、いよいよキャンプが始まります。「SMAP」級のスターを目指し、12球団、鋭い目つきで動く若者はだれなのか。そこに注目して、取材しようと思っています。