おおげさに言って申し訳ありませんが、人生の一時期だけ、巨人を応援していたときがあります。
1975年(昭50)、小学6年の頃でした。セ・リーグは広島の快進撃で「赤ヘル・ブーム」。大阪の小学校だったのに文化祭で「それゆけカープ」を歌わされました。広島初優勝のシーズンです。
その年は広島と対照的に巨人が低迷していました。監督はミスターこと長嶋茂雄さん。指揮を執って1年目でした。前年の引退時に「巨人軍は永久に不滅です」というセリフに感動しました。
阪神を応援する私と、岡山出身の父親はなぜかヤクルト・ファンでしたが「長嶋ファン」なのは共通していました。長嶋さんの引退セレモニーで涙が出たのを覚えています。
その長嶋監督が指揮を執り、巨人は低迷。当時、球団ワーストの11連敗を喫しました。
「頑張れ長嶋!」「頑張れ巨人!」。ラジオのナイター中継を聞いて、懸命に応援していました。勝ったら自分でも不思議なぐらいうれしかったものです。
それから約20年が経過し、何の因果か、この仕事について、忘れられない96年のことです。イチロー擁する仰木オリックスがパ・リーグ連覇を果たし、相手は長嶋巨人に決まりました。
日本シリーズ前々日。神戸で練習を終えたイチローに「巨人との対戦をどう思うんや?」と直球の質問をしました。当時、イチローはテレビ取材などで同じ問いに「特に」「別に」と繰り返していたのですが、このときは違った。
「巨人がプロ野球の盟主と言われていますよね。内容の伴った盟主ならいいけど、そうじゃないのなら…」。イチローはそう言いました。
我田引水ですが、シリーズ当日の朝刊、各紙はすべてミスターの記事でしたが私の記事を採用した日刊スポーツは日本中、こういう見出しでした。
「イチロー 巨人ブランドぶっつぶす!」
ちょっと強引やな、と思いましたが当時の東京本社のデスクに押し切られたのも今となってはいい思い出です。
そのシリーズをオリックスが制した後、朝食をともにした仰木監督はこう言って笑いました。
「おまえら(記者)、近鉄時代のオレと巨人の因縁はあまり話題にしなかったな~」
3連勝4連敗。「巨人はロッテより弱い」のあの日本シリーズのことでした。野球に関わる人間にとって、いつの世も特別な存在として君臨するのが巨人です。
巨人にしか入らないといった選手はいまでも巨人に複数人います。しかしドラフト制度にいわゆる逆指名がなくなり、戦力の均等化は進んでいます。若手育成のうまい下手はあれ、1球団だけが突出して強くあるのはなかなかむずかしい。
大型連敗は阪神も広島もオリックスもしています。巨人だけが、していなかったことが、ある意味では不思議な気もします。
75年、巨人戦で優勝を決めた広島ファンは言いました。「巨人を倒して優勝じぇけえ、最高よお!」。
闘将・星野仙一も03年、阪神がセ・リーグ制覇した後、ダイエーに負けたことについて後日、「巨人に勝って優勝したから気が抜けていたような感じもあるな」と打ち明けました。
結論。巨人が強くないと面白くない。強い巨人を倒したい、というのが周囲の思いなのです。
頑張れジャイアンツ。