<オープン戦:中日-阪神>◇25日◇北谷

 マラソンで日本新記録が出たので忘れていたことを思い出した。今年、栄光の? 日刊スポーツ虎番キャップを務めるのは入社15年目の酒井俊作だ。入社当時は話にオチがないので「オチなし酒井」の異名を取ったが年月を経て、それは今も特に変わりない。

 酒井は早大に入学した後、何を思ったか経験もないのに「競走部」に入った。箱根駅伝を走る、あの部だ。入部時にテストがあったそう。それをクリアしただけでもなかなか、ではある。しかし「全然、違いましたね。やっぱり。違いますよ。そりゃあ」と力説する。周囲との力の差を感じる4年間でもあった。

 そこから発想してはさすがに申し訳ない、まったくもって申し訳ないと、まず断っておいて、慣れない場面は大変だという話だ。

 主力級がほとんど参戦、しかも先発が藤浪晋太郎。注目されたが雨天ノーゲームになった中日戦で、こんなプレーがあった。1回裏、1死走者なし。藤浪が中日アルモンテを1ボール2ストライクと追い込んでからの4球目だ。142キロを計測されたカットボールを空振り。三振かと思ったが捕手・長坂がこれをそらし、振り逃げとなった。

 「ワンバウンドだったのでボクは暴投にしたいけど(記録は暴投)。でも、あれは捕らないとダメです。緊張もあったとは思うけど何のためにスタメンで使ってもらっているか、ということ。自分が一番分かっているんじゃないですか」。捕手を指導する立場の山田バッテリーコーチはそう話した。

 長坂は東北福祉大から16年のドラフト7位で入団した2年目。昨年10月に1軍で1試合だけ出場している。先発藤浪とは彼が2軍落ちしていた昨年4度、バッテリーを組んでいる。なので初めてというわけではない。

 だがオープン戦とはいえ、1軍で、注目される場面が影響したのか。さらに言えば、この日の藤浪はリラックスしたフォームでいい感じで投げ、キレていた。日刊スポーツ評論家の権藤博氏は「藤浪がいい球、投げたから雨降ったのかな」と冗談を言うほど。いずれにしてもスタメンマスクに抜てきされた試合で長坂にとっては痛いミスだった。

 「準備はしていました。ミットに当たって、自分では止めたつもりだったのですが…。う~ん」。体で止めることが要求される捕手として、さすがに長坂は悔しそうだ。しかもワンバウンド球への対応についてはチームでも評価が高い。それだけに余計に無念のプレーとなった。今季も「競走」ではなく「競争」の阪神。開幕まで1カ月、正捕手争いも続く。【編集委員・高原寿夫】