大勢の報道陣を前に話をする緒方監督(撮影・梅根麻紀)
大勢の報道陣を前に話をする緒方監督(撮影・梅根麻紀)

今回ばかりは自分の意志を貫いた、と言うところだろう。広島緒方孝市監督が10月1日、今季限りでの辞任を発表した。

今春のキャンプ、沖縄市内で食事をしたとき、その気持ちを聞いた。

「結果にかかわらず、もう今年で、と思ってます」

広島の監督は5年周期になることが多い。生え抜きを大事にし、人材を育成する球団の特性があり、他球団に比べれば長い方だろう。それでも3連覇を果たし、迎える新たなシーズンの前からそんな覚悟なのか、と思ったのは事実だ。

「いつまでもやれないでしょう。正直、相当、体はきついですわ。そんなに長く、もたんですよ」

シーズン中、顔を合わせるたびに「フラフラですわ」と言った。こちらはいつも「とことん、やればいいじゃん」と言うから苦笑ばかりさせることになった。

9月21日の阪神-広島戦の前夜20日に食事の約束をしていたが体調が悪いとキャンセルしてきた。翌日、甲子園球場で顔を合わせ、「すみません。セキが止まらんのです。クラクラするほどセキが出てね…」と話した。いよいよ覚悟を決めたな、と思った。

不器用で口べた、ぶっきらぼうなのは選手時代からだ。マスコミ対応を含めてもっとうまくやれば、という話をしたのも数え切れない。そんなとき、笑いながらこういう答えをした。

「それは何のためにですか。結局、人によく思ってもらうためでしょ。保身というか。そういうのはいいんです。他の世界のことは知らんけど、この世界は結果がすべてなので」

人生で嫌われる覚悟を決めているのは、なかなか普通ではないと思った。そのくせ選手らには意思を伝える必要性を理解し、監督就任を前にこっそり「話し方教室」に通ったりする素直さも持ち合わせていた。

スターになった現役時代、FA移籍を悩んだが、最後は広島への愛着で残留した。現役引退を自分で決めたときは球団に申し入れたが拒否された。

「代打要員で考えている」と言われたからだ。「自分で引きどきを決められないレベルの選手なのか、俺は」と複雑だったが、結局、受け入れた。まさに「広島の権化」だった。

今度も慰留されたらどうするのか、と思っていたが今回ばかりは自分で決めたということだ。

「育てながら勝つ」。どのチームも目指す永遠の課題を実現した5年間だった。これは誰が何と言おうと否定できない事実だ。【編集委員・高原寿夫】

9月27日、最終戦を終えファンにあいさつする緒方監督(撮影・栗木一考)
9月27日、最終戦を終えファンにあいさつする緒方監督(撮影・栗木一考)