いやあ、新井サン、よかったな、さすがと「あのときのこと」を思い出しています。

今月5日、阪神の今季初遠征に帯同して広島入りしたときのこと。あいにくの雨とあって阪神の練習時間に合わせ、マツダスタジアムに隣接する室内練習場に向かいました。

そのとき出入り口からスタッフとともに出てきたのは広島を今季から率いる新井貴浩監督でした。

開幕カードは神宮球場でヤクルトに3連敗。さらに今季2カード目、本拠・マツダスタジアム開幕戦である4日も阪神に4-5で惜敗していた段階です。誰が考えても苦しいところでしょう。

広島時代、そして阪神に来てからも特別に付き合っていたわけではありませんが若い頃から知る仲。思わず「新井監督!」と掛けたのです。

15日、秋山のサヨナラ弾でヤクルトに勝利し笑顔を見せる新井監督
15日、秋山のサヨナラ弾でヤクルトに勝利し笑顔を見せる新井監督

「おっ。久しぶりです」と握手してくる同監督。そこで思わず言ってしまいました。

「なかなか大変やねえ。大丈夫かな?」

そのとき同監督は何と答えたか。少しだけ驚きました。突然、両手を大きく広げ、足を前後にして大きな体がさらに大きく見えるような構えを取りました。そこで大きな声でこう言ったのです。

「何が大変なんですか? 全然ですよ。大丈夫です! どーんと来いですよ! わはは!」

新井監督と言えば業界では「敵がいない」人物として知られています。

実力の世界、現役を退いてからも人の好き嫌いが多いのがこの世界。敵と言うのは大げさでもウマの合う、合わないが激しい業界と、30年あまりの取材生活で感じています。

そんな中、新井監督は-。味方は当然、多いとして「敵」は特に見当たりません。もちろん、そういう「全方位外交スタイル」を快く思わない人もいるかもしれませんが、少なくとも「新井はな」と顔をしかめる人は、こちらの知る限り、いません。

天性の明るさ、横から見ていて照れるほどの一生懸命さといったもので、ここまでやってきた人ならではだと思います。

監督就任が決まったとき、久しぶりに携帯電話にショートメールを送りました。しかし正直、長い間、会話はもちろん、顔も合わせていない。返事は来ないかなと思っていたのです。

しかし翌日になって「遅くなってすみません-」から始まる丁寧な返信が届きました。そこには監督という大役に向かう戸惑いと決意が表れていたものです。

そして5日に大きな構えで見せた陽気さ。カラ元気だったかもしれませんが「さすが新井サン」と思わせたのです。

結局、その5日は雨天中止になりました。しかし翌6日、やはり雨の中、強行した試合は6回途中、降雨コールドゲームで広島は今季初勝利。監督初勝利が雨天コールドというのも、何が起こるか分からない新井監督っぽくて面白い。そして、そこから5連勝の快進撃が始まったのです。

16日、ヤクルトに3連勝しファンの声援に応える広島新井監督
16日、ヤクルトに3連勝しファンの声援に応える広島新井監督

さらに16日ヤクルト戦(マツダスタジアム)では終盤に5点差を跳ね返す逆転勝ち、一気にセ・リーグの首位に立ちました。これであの6日以降、9試合で8勝1敗。とんでもない勢いです。

開幕前、評論家諸氏の下馬評は低かった新井監督率いるカープ。はっきり言って、この調子がずっと続くかどうかは分かりません。それでも、なんだかプロ野球を面白くさせてくれそうな予感。18日からは甲子園に場所を移して、再び阪神3連戦です。どんなドラマが生まれるか、注目です。【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「高原のねごと」)