日本ハム、ロッテ、ダイエーで21年間の選手生活を送り、その後はソフトバンク、阪神、中日で2軍バッテリーコーチなどを21年間(うち1年間は編成担当)務めた日刊スポーツ評論家・田村藤夫氏(60)が18日の巨人-日本ハム戦(ジャイアンツ球場)を取材した。2本の三塁打を放った野村佑希内野手(20=花咲徳栄)に、右のスラッガーになりうる非凡さを感じた。

日本ハム野村佑希(2020年7月5日撮影)
日本ハム野村佑希(2020年7月5日撮影)

打席の野村を見て、構えがデカイなと感じた。いかにも大きいのを打ちそうな雰囲気を感じさせる。それは言葉ではなかなか説明しづらい。漠然とそんなイメージを持ちながら4打席を見た。

第1打席は巨人先発太田のカットボールを打ってサードゴロ。

第2打席はインコースの144キロストレートにどん詰まりのセカンドフライ。

第3打席は捕手が外に構えたところで、甘めに入ったストレートを右中間へ三塁打。この打席では追い込まれてからカットボールをファウルでしのぎながらフルカウントと粘った末、低めのストレートを右中間へ運ぶバッティングが光った。リストが強そうだ。

第4打席は2点リードでの無死二塁。右のサイドスロー田原と対戦し、捕手がインコースに構えたところでちょっと甘くなったストレートをセンターオーバーの三塁打。外野は前進守備だったが、定位置だとしても、フェンス際まで運んだ打球で、文句なしの三塁打と言えた。

今季は7月上旬に右手第5指基節骨の骨折で戦列を離れ、ようやく復帰したと聞く。私にとっては野村を見るのはこれが初めて。これまでのデータがないため、第一印象を大切にした。そこで目に留まったのは、グリップの位置。高さは肩のラインにあって、ベースにややかぶるくらいに前に出ている。体から少し離れているグリップの位置が、心に残った。長年捕手を通じて培った感性が、そう思わせたのかもしれない。

少しでもプロ野球ファンの皆さんにイメージしてもらいやすいよう、私が対戦したバッターと頭の中で比較してみた。なかなかピッタリと重なるバッターが思い浮かばないが、多少無理はあるかもしれないが、右のスラッガーでひねり出してみた。清原が似ているなとの結論にたどり着いた。清原の現役時代の映像を見て確認した。清原の方が少しだけグリップの位置が体に近いかなと感じた。

しかし、不思議なものでそうやって考えているうちに、気が付くと自分がマスクをかぶっていたらどう攻めるかと、空想の中で配球を組み立てていた。それは、野村と初見で対戦したらの話で、今やデータ、映像を元に必ず対策を錬ってから、バッテリーは相手の主力打者と対戦する。あくまでも、初見なら自分はどう攻略するのかと思案してみた。

まず、グリップの位置を見て、インコースを攻めるところからスタートするのかなと思う。なぜなら、インコースは体の近くで振らないといけない。体から離れてグリップを構える野村が、そのインコースに対してどう対応するのか、それが打ち取るための重要な情報になる。

対応がぎこちなければ、バッテリーを組むピッチャーの出来次第で勝負球はインコースにストレートを選択するだろう。対応がスムーズならば、インコースで体を起こしておいてから外の変化球を選ぶだろう。ただし、第2打席で太田の144キロのインコースにどん詰まりだったことをヒントにするなら、1軍レベルのキレのあるインコースにはまだ苦しむ気もする。これから1軍で定着して数字を残すには、その辺りが野村にとっての当面の課題になるだろう。

グリップの位置から派生して、実にたくさんのことを考えることができたのだから、この20歳の野村という右打者を見られたことは収穫だった。そういう気持ちにさせてくれるバッターが、古巣日本ハムにいる。本当に楽しみだ。(日刊スポーツ評論家)