<日本ハム紅白戦:紅1-1白>◇3日◇鎌ケ谷

田村藤夫氏(63)が日本ハムの紅白戦を取材した。同点の5回裏、主力チームの7番・清宮幸太郎内野手(23)は1死二、三塁でスクイズのサインも空振りしてチャンスをつぶした。新庄監督の狙い、応えられなかった清宮の心理を推し量った。

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同点の5回裏、無死一、二塁で犠打を決めて1死二、三塁。左腕投手に対して清宮がどんなバッティングをするか注目していた。初球スライダーを見逃しカウント0-1からの2球目だった。

ホーム後方で見ていた新庄監督から三塁コーチを経由してスクイズのサイン。2球目、捕手の構えは外。しかし、投球は中に甘く入り、真ん中外寄りの真っすぐ。清宮はギリギリまで通常の構えでいたが、スクイズの姿勢に入り、バットに当てにいくが空振りに終わった。三塁走者はアウト。2死三塁となった。

この後、清宮は死球で2死一、三塁。盗塁して二、三塁としたが後続が倒れて無得点に終わった。盗塁場面では捕手からの送球を投手がカット。そのまま二塁に送球していたら微妙なタイミングだった。

スクイズの場面を私の経験と照らし合わせて考えてみた。まずカウント0-1からでは通常は次のボールは外される可能性がある。守備側からすればスクイズへの警戒感は幾分薄れる傾向にある。そこを新庄監督が逆手に取り決断したのかもしれない。

そこに対して7番清宮がどう感じていたか。打順7番にスクイズは十分にあり得る。まして同点の好機だ。清宮の頭にスクイズという選択肢があったのかどうか。相手チームは前進守備を敷いており、この場面で清宮に求められるのは犠飛、ヒットだった。左腕に対して新庄監督は清宮では犠飛、ヒットは苦しいと考えていたのなら、残る選択肢はスクイズになる。

ベンチはそうやって勝ち越しの1点をどう取るか、可能性の高いものを求めていく。選手はベンチのサインにこたえるべく、最善の準備をしなければならない。私は、清宮の頭にスクイズはなかったように感じた。あっ、スクイズのサインが出た、という感覚だったのではないだろうか。

今季の清宮は129試合に出場して犠打は2。過去3年間(21年は1軍出場なし)で犠打はいずれも0。今後、新庄監督は清宮にバントはおろか、スクイズも出すというメッセージとも受け止められるし、秋季キャンプ時期の紅白戦で7番に入れ、スクイズをさせてその適応性、ベンチ戦略に対する理解力を測ったとも言える。

新庄監督の思惑と、清宮の心理面をそれぞれ想像すると、いろんなものが見える。清宮は早実時代も、プロ入り後もスクイズのサインが出たことはあったとしても非常に少なかったのではないか。長打を期待されるスラッガーとして、これまではスクイズを求められることはなかったと思う。

しかし、これからはそうは行かないという新庄監督なりのメッセージにも感じる。来季は新庄監督にとって勝負のシーズンになる。今季は1軍で使われ、キャリアハイとなる18本塁打を記録したが、打率は2割1分9厘と低迷した。まだ覚醒の時期は訪れていない。ホームランで素質を感じさせる1発を何本か放ってはいるが、まだまだベンチの確固たる信頼を勝ち取るには至っていない。

最後にこれだけは強く言っておきたい。空振りするボールではなかった。あの真ん中外寄りの真っすぐをスクイズで空振りは考えられない。スクイズのサインに面食らったとしても、バットに当たるボールだ。それを空振りしてしまうところに、私は驚きを隠せない。

直後、清宮は下を向いてしまった。必死に練習する選手だと聞いている。ドラフト1位で注目されてプロに入り、何とか持ち前の打力を開花してほしいと感じる打者に変わりない。

7番という打順も、今の清宮が突きつけられている厳しい現実だろう。この日のスクイズ空振りが、どんな評価になっていくのか。これからの試合形式でさらに清宮は多くの試練を与えられるだろう。より一層の危機感を持ち、ベンチの采配を理解して確実に実行できる準備をしなければ、1軍生き残りも厳しくなる。そう思わせる象徴的なシーンだった。(日刊スポーツ評論家)

紅白戦の5回裏1死二、三塁、清宮がスクイズに失敗し、三本間でアウトになる三塁走者野村(左)(撮影・鈴木みどり)
紅白戦の5回裏1死二、三塁、清宮がスクイズに失敗し、三本間でアウトになる三塁走者野村(左)(撮影・鈴木みどり)
紅白戦の5回裏1死二、三塁、清宮はスクイズに失敗し、三本間で三塁走者野村がアウトになる(撮影・鈴木みどり)
紅白戦の5回裏1死二、三塁、清宮はスクイズに失敗し、三本間で三塁走者野村がアウトになる(撮影・鈴木みどり)